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2018年4月6日
自治日報
《自治

執筆原稿から

情報公開は民主主義の土台

 情報公開制度の制定は、自治体が国に先行した。山形県金山町が自治体として初めての情報公開条例を制定したのが1982年。翌年、神奈川県と埼玉県がそれに続き、1996年までにはすべての都道府県において情報公開条例が制定された。国の情報公開法の施行は2001年、自治体にだいぶ遅れをとった。

 情報公開制度の開始が国に先行しただけでなく、その運用においても地方自治体は国より何歩も先を言っている。自治体と住民との関係において、自治体は国と比べて権力性が弱いことから、自治体としては住民への情報公開を当然のこととして受け入れる素地があった。住民の側から見ても、自治体は自分たちに近い存在と感じるので、自治体の保有する情報は自分たちのものという感覚がある。

 情報公開の運用においては、自治体特有の事情として市民オンブズマンの存在がある。情報公開条例により開示された文書を精査して、自治体の裏金づくりを解明した実績もある。自治体の情報公開は市民オンブズマンによって鍛えられている一面もある。さらに、全国市民オンブズマン連絡会議は、毎年、都道府県・政令市を対象に「全国情報公開度ランキング」を発表し、自治体間で公開度の競い合いを促していることもあり、自治体の情報公開はますます洗練度を増している。

 一方、霞が関の官庁では、情報公開法直前の2000年度に農林水産省は前年度の20倍の文書を廃棄した。他の役所も前年度比2倍以上の文書を廃棄していた。情報公開法施行前夜というタイミングを考えると、開示を免れるための廃棄と疑われても仕方がない。各省としては情報公開法の制定は歓迎することではなく「どうやって開示要求からすり抜けようか」の算段が先に立った。

 情報公開に対する各省の姿勢に真剣さが欠けている。その際たるものが、森友学園問題に関する財務省の公文書が廃棄されたり、決裁文書が書き換えられた疑いが生じている事案である。役所にとって都合の悪い文書が廃棄されたり、内容が改ざんされているとすると、情報公開法は意味をなさないことになる。国民の知る権利が侵害されている。民主主義の危機でもある。

 財務省とすれば、開示されれば「不都合な真実」が明らかになることを怖れたのだろうか。具体的には、森友問題で誰かの思いを忖度し、森友学園側に便宜を図ったという疑いである。財務省は、この事実を隠すために文書の廃棄、学園との国有地取引をめぐる文書の改ざんをやったとすれば、実に浅はかな所業と言わざるを得ない。森友学園側に便宜を図ったことが明るみに出たとしたら、関係した職員に何らかの処分はなされるだろう。それなりの反省が求められる。それに対し、文書の廃棄・改ざんはもみ消し工作である。職員個人の問題にとどまらない。ごめんなさいでは済まない。政府の姿勢の問題となり、政権を揺るがすほどのインパクトがある。ニクソン大統領はウオーターゲート事件を起こしたからではなく、事件のもみ消しを図ったために大統領を辞任することになった。事件を起こしたことともみ消し工作とでは、悪質度がまるっきり違うのである。

 行政の透明化を進めるにあたって、情報公開法、公文書管理法(2011年施行)の重要さを知る立場から見れば、今回財務省がしでかしたことは極めて悪質な所業である。さらに憂えるのは、当の財務省はもとより政府としてもこれが大したことではないと受け止めていることである。公文書の改ざんは犯罪であるだけでなく、民主主義の土台を揺るがす行為であるとの認識が欠けている。

 安倍首相のリーダーシップが求められている。今回の事案にとどまらず、霞が関各省に情報公開の推進と公文書管理の適正化を徹底させることが必要である。この過程で不都合な真実が明らかになり、各省の不祥事が露見する可能性はある。そうではあっても、いやそうなればこそ、政権が情報公開に取り組む本気度が国民に理解され、政権への信頼が取り戻せる。

 情報公開の徹底により各省が緊張感をもって業務を遂行するようになる効果をもたらす。不適正な業務執行は情報公開制度により、必ず露見することをすべての職員が認識するからである。情報公開は組織にとって転ばぬ先の杖として組織を救う。  ここで安倍首相は決断できるか。国民は期待をもって見つめている。  


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