![]() 世界週報2006年10月31日
小泉首相とエルヴィス 政権の最後の年、小泉首相は米国を訪問した。ブッシュ大統領との外交論議よりも、テネシー州メンフィスにあるエルヴィス・プレスリーの邸宅グレースランドを訪問したことが大きく報じられた。小泉首相がエルヴィスの真似をして、はしゃいでいる姿よりも、隣のブッシュ大統領の苦笑いのほうが印象深い。 日本を訪問した外国元首が、日本の首相の前で、「大ファンです」と、美空ひばりの「佐渡情話」を歌う。しかも、日本の首相は、ひばりさんのそんな歌を知らなかったりしたらどうだろう。小泉首相訪米の際のエルヴィス挿話に関する日本の識者の評には、「顰蹙」、「はしゃぎ過ぎ」という文字が躍った。私の反応は、ちょっと違う。「私のエルヴィスを勝手に使うな」というのに近い。 私は、1962年、仙台市立第二中学校三年生の時からのエルヴィス・ファンである。ファンというより、尊敬、慕情、崇拝である。彼の外見やパフォーマンスはどうでもいい。ただただ、歌声の素晴らしさにしびれてしまった15歳。それから43年間のエルヴィス・ファン人生である。 知事時代に、地元仙台のコミュニティFMで、毎週水曜日「シローと夢トーク」という番組のDJを務めた。エルヴィスの曲だけかける、エルヴィスの曲の話だけするという、究極のオタク番組である。これが五年続いた。 2000年の夏、エルヴィスの命日の8月16日に合わせて、グレースランドへのツアーに参加した。グレースランド近くの「ハートブレーク・ホテル」に6泊して、毎朝、エルヴィスのお墓にお参りした。ミシシッピ州テュペロのエルヴィスの生家、通った小学校にも行った。全額自費の私的旅行である。近くにいたのは、米国大統領ならぬ妻だったが、今思い起こしても至福の1週間であった。 こういう私であるので、小泉首相には、あんな形でエルヴィスを扱って欲しくなかった。死後29年経っても、「エルヴィス・ファン・クラブ」への新規加入が増えているが、小泉首相のパフォーマンスで、その数がさらに増加したぐらいの効果はあったかもしれない。それをエルヴィスは喜んだだろうか。 聖地メンフィスへは、私的にひっそりと行くのがいい。首相辞任後は時間的余裕があるだろう。メンフィス再訪には、私がお供をする。道々、心行くまで共にエルヴィスの歌を聴き、エルヴィス談義に花を咲かせたい。そこに総理大臣としての5年の回顧談が混じっても、それはそれで構わない。
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