![]() 2006年5月24日夕刊 宮城県知事を昨年11月に引退し、この春、慶応大教授に就任した
浅野史郎前宮城県知事が初の書き下ろし 本書は3期12年の知事生活を振り返る内容だ。この間に経験したあれこれを、大学教師らしく「教科書風」に並べた。とはいえ、全国的にも著名な浅野氏の体験談は、波乱万丈の物語となっている。 93年、前知事の汚職による逮捕を受けた選挙で、自民、社会(当時)両党などの推薦候補を破り初当選。県の裏金を内部調査で暴いたり、県警の情報公開を巡って県警本部長と対立した。これらの取り組みで、「改革派」知事の急先ぽうとして注目を集めた。 さらに障害者施設の入所者の地域生活への大幅移行や、プロ野球球団「東北楽天ゴールデンイーグルス」設立支援などでも話題を振りまく。 引退までの数年、特に力を注いだのは、国と地方の税財政の三位一体改革と、県警と再び対立することになった犯罪捜査報償費の使途に関する問題だった。 三位一体の改革では、全国知事会の中枢メンバーとして国から少しでも税源を移譲させようと努めた。ともすれば役所同土の税金を巡る綱引きと思われがちだが、「本質は住民自身による『ほんものの民主主義』を作ることだった」と強調する。 「ほんものの民主主義」とは何か。その意味を、改革で削減された義務教育費の国庫負担を例に説明してくれた。 「教育内容を一番に考えるべきなのは、対象の学校がある地域の住民自身です。だから、現場から遠い国ではなく、身近な自治体が、住民に注文を付けられながら予算を決めるべきです。なんであれ、住民が国にお任せにはできない仕組みを作って、自分たちの責任を認識しないと、日本は本当の先進国になれない」 国と地方は05年12月、3兆円の税源移譲で合意したが、その内容に満足してはいない。「今後も国への働きかけを強めるべきだ」と現職知事たちに注文する。 報償費問題では、裏金にされている可能性を感じて県警を追及。昨年6月には、報償費予算を一切使わせないという強硬手段に出た。しかし、その後も県警は折れず、時間切れに。県警に裏金作りの事実を認めさせた北海道や福岡のようにはいかなかった。 「これは一県警の問題ではない。標的は彼らの元締めである警察庁です。だから、今の立場で発言するほうがいいかもしれない」と、さらなる戦いに意欲を見せている。 報償費をはじめ積み残した課題は多かった。4選出馬を当然視されてきたが、昨年8月に突然の引退表明をし県政界を揺るがした。 「元々、3期までと決めていました。それに知事を辞めてからも、きちんと次の仕事をしたかった。57歳だった去年がギリギリの辞め時だと思ったんです」 現在、県社会福祉協議会長をはじめ、複数の団体の長を務める。講演活動も多く、今月はホテルに22泊という多忙な生活だ。それでも「次はラジオパーソナリティーの仕事がしたい。マスコミが大好きですから、実現したら本当にハッピーです」と意気軒高だ。 引退後、表情が穏やかになったようだ。大学教授への転身から間がないが、既に充実感をにじませている。 「(知事会で組んだ)現職知事たちに、私がハッピーなことを示して『辞め時を逃して知事だけで終わるなよ』とメッセージを送ってるつもり。知事仲間が辞めたら、また一緒に何かやりたいんで
す」
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