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三位一体改革の「決着」

2005.12.5

 三位一体改革の今年の攻防が終わった。個人的なことで言えば、私の宮城県知事としての任期は11月20日で終了した。そのすぐ後に決着をみたので、最後の場面に知事として関わることはできなかった。

 3兆円の税源委譲のうち、残された6千億円分をどうするかが、今回の攻防の内容であった。金額の帳尻合わせはできた。しかし、その中身を見ると、児童扶養手当の国庫負担率を4分の3から3分の1への引き下げ、児童手当の負担率を3分の2から3分の1への引き下げで、3400億円を生み出した。既に決まっていた義務教育国庫負担金の8500億円の廃止は、廃止ではなく、負担率を2分の1から3分の1への引き下げで同額を生み出すという。これこそ、数字合わせそのものであり、全くもって不誠実な対応である。その一方で、施設整備費の補助金を各省合わせて690億円分廃止したのは、「この補助金の原資は建設国債だから、廃止しても税源委譲はできない」という財務省などの「論理」を乗り越えて実現したものであるので、この点は評価できる。

 「単なる負担率の引き下げは、地方の裁量の拡大にはつながらず、認められない」という主張を地方側では早くから明確にしていた。にもかかわらず、今回、負担率の引き下げを案の中に含めてしまったのは、なんとも承服しがたい。補助金を削ればいいのではない。補助金づきの事業を補助金ごと廃止することが必要なのである。負担率、補助率を下げても、国の関わりは残るので、補助金の使い勝手の問題は残る。補助金の本質である縦割りの弊害、「あれかこれか」の判断ができないこと、この問題は全く解決しない。つまりは、本質的解決にはならないことを、もう一度想起すべきである。

 看過されてならないのは、負担率の引き下げという奇策によって、地方側として最も実害が大きい補助金として廃止を要請していたものが、軒並み廃止を免れたことである。昨年の出来事を思い出して見よう。国民健康保険に都道府県の財政調整交付金が突然設けられて、その分の六千八百億円が税源委譲になったことにより、地方側が要請していた廃止対象補助金の大部分が廃止を免れた。この「奇襲作戦」により、各省からすれば、ほとんどの補助金を温存できたということで、救われたのである。今回は、その二番煎じ、柳の下のどじょうである。負担率の引き下げはけしからんということ以上に、力を込めて怒らなければならないのは、本来廃止されるべき補助金のほとんどが温存されたことである。

 三位一体改革は、なんのための改革だったのか。こういった決着であるとすれば、その原点が忘れられていると言わざるを得ない。私は、三位一体改革の代わりに、地方財政自立改革と呼ぶべきことを提案していたが、目的は地方財政の自立である。納税者の立場から言えば、自分が税金を払う自治体のお金の使い方に、国の補助金が介在することなしに、直接に物申せるシステムを作るということである。今回の政府案では、改革の目標としてのこういった点が、ほぼ完全に看過されている。

 「原点が忘れられている」と書いたが、霞が関の各省からすれば、改革の原点なるものを共有したことは、一度もない。地方側が何やら騒いでいる、小泉首相も同調しているらしい。だから、何らかの形でカッコつけなければならないとの認識はあるが、心から納得、同調してのことではない。こういう背景の下では、各省としては、数字合わせ、辻褄合わせ、その場しのぎ以外の行動を取れるはずがない。

 この辺は、最初から読み込み済み。各省が、自分たちの「飯のたね」と考えている補助金、負担金、それを保持していることからくる権限を自分から手放すことは期待するほうが無理というもの。霞が関を超える権力のリーダーシップが、不可欠である。それが小泉首相の指導力ということになるのだが、小泉首相は三位一体改革の原点、本当の意義というのを正しく理解していたのだろうかという、根本的疑問が湧いてくる。

 今回の「決着」について、小泉首相が「地方側の意見も尊重されてよかった」といったコメントを出している。税源移譲額3兆円のうち、国庫負担率の引き下げで義務教育費8500億円、児童扶養手当・児童手当3400億円、それに昨年の国民健康保険7000億円を生み出している。これらで全体の約六割である。こういった形での決着が、「地方の意見が尊重された」と言えるかどうか。問題の本質を理解している人たちから見れば、全くの的外れな評価であることは、明らかである。

 さて、これからどうするか。この「決着」でほっとしている霞が関であるが、そうはいかない。地方側として、再度戦線を立て直して、第二期の改革に全力を挙げていかなければ、これまで努力してきた甲斐がない。知事の役職は離れたが、新しい立場からも、このことを強く期待したい。



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