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日本道路公団の入札談合

2005.8.9

 日本道路公団が発注した鋼鉄製橋梁建設工事をめぐる談合事件は、広い意味での公共事業の入札契約のあり方のみならず、日本道路公団という組織の病理、天下り問題など、幅広い分野における問題を提起しているように思える。この件については、きっちりと事実関係を洗い出し、どこに問題があるのか、明確にする必要がある。日本道路公団の民営化の直前というタイミングである。このままの形で、うやむやのままに民営化してしまうことは、将来に大きな禍根を残すであろう。

 鋼鉄製橋梁建設工事における談合は、もっと大きな問題を明らかにするためのきっかけに過ぎないのかもしれない。道路関係四団体民営化推進委員会の猪瀬直樹委員は、8月2日の委員懇談会で、道路公団においては「道路本体の土木工事でも談合が行われていた疑いがある」として、2000−04年度の土木工事の落札率が平均して97.6%であったことを明らかにしている。

 ことは、工事の発注に伴う談合に関する問題である。日本道路公団も例外ではないが、関係者の談合に対する見方が甘いのではないか。「談合は悪である」といった言い方は、「悪」の前に「必要」というのをつける人が必ず出てくるから、適当ではないということを、私は何度も言ったり書いたりしてきた。談合は悪どころではない、犯罪なのである。  談合がなくなると、安値合戦の値段の叩き合いになって、業界全体が不利益を蒙る。それを回避するために、昔から定着している業界の知恵なのであるから、談合はむしろ必要なものである。こういった考え方がどこかにあるのではないか。というより、これが「常識」にすらなっているのではないかと訝る。

 宮城県は、数年前の「官製談合」問題への真摯な反省から、入札契約のあり方を根本的に改めた。1千万円以上の工事は、すべて一般競争入札に付する。予定価格は事前に公表する。これ以外にも、談合をなくするために、さまざまな工夫を加えている。こういった改善をすることによって、落札率は劇的に低下して、今や、平均して80パーセントを下回る状況である。

 宮城県が進めている方式は、業界の「常識」に反するのだろうか。落札率が落ちることによって、粗悪工事が増えるとか、下請けへの締め付けがきつくなるとか、いろいろな批判が聞こえてくる。しかし、「談合は犯罪である」、「官製談合は断固排除する」といった基本線は、絶対に守っていく決意は変わらない。今回の日本道路公団の談合問題を見ていて、特に強くそのことを感じる。

 発注者である日本道路公団と、受注者となる業界だけの閉じられた世界というのがある。それしか見えていない人には、談合、それに伴う契約金額の高止まりは、大した問題には思えないだろう。高速道路のユーザーは、もっと低くてしかるべき利用料金を払わされている被害者である。納税者が蒙る被害は、直接的には実感されないが、工事費用の増大のつけは、回り回って納税者にまでやってくる。

 閉じられた世界が外にも見えるようなシステムが必要である。広い意味での情報公開である。それが不十分であったのではないか。入札契約、天下り、ファミリー企業の実態が、リアルタイムで明らかにされていたら、どうであっただろう。「閉じられた世界」の常識は、外の世界には通用しないことを、関係者が実感しなければならない。さもなければ、言葉は悪いが、やりたい放題となる。

 今回のことだけではないが、明らかにされてくる事実を見ているときに、もうひとつ私が強く感じることは、組織や地位にまつわる「役得」ということである。天下りは、役得の最たるものである。これに限らない。とてもわかりやすい例でいくと、動物園に勤めている人が、知人友人を只で入場させるようなことも、役得ととらえるべきものである。そういう「権限」を行使し得ることを、知人友人に自慢できる。こういう役得をほくそえむ心の動きが、腐敗へのスタートラインであると私は考える。収賄というのも、それで得られるお金が欲しいということだけではなく、そういうお金をもらうことができる権限を持っていることの確認行為にも見られる。それで自尊心がくすぐられる。こういった心理状態を評すれば、「さもしい」の一語に尽きる。

 役得に固執する強さは、自分の仕事そのものから得られる満足感の少なさの関数であるような気がする。逆に言えば、今の自分の仕事に誇りとやりがいを感じていれば、役得などに気を取られることはないということである。日本道路公団は、全国に高速道路網をめぐらすプロ専門集団であり、そのことに深い敬意を表したいと申し上げたことがある。今でもそう思っている。そのことに誇りと自負とやりがいを十分感じて仕事に没頭し、それに対する相応の報酬が得られているのであるとすれば、その他のことは眼中に入らないはずではないか。

 今回の日本道路公団の入札談合事件から、ここまで話を展開するのは、飛躍があるかもしれない。しかし、いかなる組織、いかなる組織人においても、自戒すべき事柄の片鱗が、この問題から垣間見えているということで、あえて書かせてもらった。



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