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河北新報2006.2.16
疾走12年から 第7回

県警犯罪捜査報償費

真相未解明に心残り

責任果たせない
 宮城県警犯罪捜査報償費の問題については、私としては、まだ生々しい問題であり、知事を辞めた現在も、すっきりしない思いで一杯である。報償費の執行が不適正であるという内部告発の情報が、私に寄せられている。直接情報であるので、私としては、この予算執行が不適正であることを確信している。

 県警は報償費の執行にあたって、捜査上、多大な支障が生じるため、「協力者の存在は秘匿されなければならない」という。いかにも情報公開の問題のように聞こえるが、そうではない。予算執行の最高責任者である知事が、不適正支出を確信している。だから、予算の執行状況を知事に対して説明しなさいと県警に要請したのだが、「捜査上の支障」を持ち出して拒否されている。

 問題は、知事と県警本部長という二つの権力の調整であり、「捜査上の支障」と「予算の適正な執行」とどこでバランスを取るかということである。

 情報公開の問題ではないことを強調したのは、「公開」が求められているのではないからである。たった一人の知事にさえ見せない、説明しないで済まされる情報があっていいのか。不適正支出を明確に疑っている知事に、なんらの説明もしないで済む機関があるとすれば、一体、誰がどうやって支出の適正さをチェックするのか。

 監査委員なら見せるが、知事にはダメと言われたこともあったが、そんなことが通ったら、予算執行の最高責任者として、知事の責任を果たすことはできない。

常識で理解不能
 「責任」と書いたが、県民の税金を使って執行される予算が適正に執行されていないことを知りながら、その予算が執行されるに任せていたら、知事の責任問題である。納税者である県民に、どう説明できるのか。報償費予算の執行停止を決断したのには、こういった理由もある。

 そもそもが、報償費の執行に問題意識を持ったのは、「分からないものは、分からない」という単純なことであった。県警から説明を受けるたびに、訳がわからなくなってきた。論理的にというより、常識的に見て、どうしても理解不能であった。それなのに、分かったふりなどできない。

信頼回復早急に  
  情報公開に聖域を作ったら、必ず腐敗するというのが私の確信であることは、第二回のこの欄で書いた。同じ稿で、宮城県庁が不祥事を自らの手で解明して、陳謝し、処分をし、不適正支出にかかわった金額を返還した経緯を書いた。そういった過程を経て、組織として立ち直ったのである。

 県警犯罪捜査報償費の問題を、知事と県警とがけんかしているといったように、興味本位で伝えられることもあった。どっちもどっちとか、知事が県警に文句つけたり予算執行停止しているうちに、県内の治安は悪化する心配があるという批判の声も聞こえた。

  そうなのだろうか。治安の維持に関して一番問題なのは、県警に対する信頼感が失われていることである。早急に信頼を回復しなければならず、そのために必要なのは、県警自らが真相を徹底的に明らかにすることであると信じている。知事が勝つか、県警が勝つかではなく、どちらも勝者になる道はあることを最後まで強調したが、受け入れられなかった。

 今のままでは、全く理不尽、不条理。こんな状況で知事を辞めることには、心残りがあったことは事実である。しかし、真実は時間がかかっても、必ず明らかになる。そのことを信じつつ、まだまだこの問題を見守っていかなければならないと心に決めている。


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