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月刊ガバナンス平成18年12月号
アサノ・ネクストから 第12

学生と地方自治

 アサノネクストの仕事の一つであるが、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の総合政策学部教授として地方自治を学生に教えている。春学期は「政治参加論」、そして秋学期は「地方自治の制度と運営」という講義である。

 毎回、出席カードに学生のコメントを書いてもらっている。そこから読み取れるのは、学生は政治に興味がないのではないが、地方自治にはほとんど関心がないということである。それでも「地方自治」の講義を選択して、200人以上の学生が集まってくるということだから、地方自治に関心を持たなければならないという意識は持っているようである。

 「夕張市はなぜ破綻したか」、「滋賀県、長野県知事選挙で現職はなぜ敗れたか」、「岐阜県庁の裏金問題はなぜ今頃明るみに出たのか」という標題で、具体的な問題から学生の関心を引き寄せる工夫をしている。毎回の授業では宿題を出す。例えば、「この1週間の地方自治に関する新聞記事を3点」、「出身自治体の財政力指数、公債費残高、公債費比率、経常収支比率」、「出身自治体の首長選挙の最新結果」といったことである。学生としては、聞いてみて、調べてみて、「フーン、そうだったのか」と気づく段階であるが、ものごとすべて、この「気づき」から発しているのだから、授業の目的は半分達したようなものである。

 地方自治の実態について、学生は知らなかったのである。関心がなかったから、知ろうともしなかった。調べてみたら、わが自治体も、夕張市の財政状態とまったく違っているわけではないことを知った。そうか、あの市長は、ああいう図式で選ばれていたのか。県会議員の名前など、誰一人知らなかったが、今度の選挙では、誰かに投票することにしよう。わが自治体では、裏金づくりなどないのだろうな。こんなふうに、学生の関心は高まり、行動に移そうというところまできている。

 授業は、すべて順調というわけでもない。夕張市の破綻問題に関連して、地方債、地方交付税の説明をした授業後の出席カードの記述では、「難解である」、「さっぱりわからない」というコメントが続出した。出席学生は、1年生から4年生までと幅広い。基礎的な説明から始めたが、4年生には陳腐過ぎても、一年生はチンプンカンプンである。もちろん、私の説明の仕方がまずいことも反省点である。今学期中にもう一度説明の機会をもって、私としての「敗者復活戦」にしたいと思っている。

 ほんものの民主主義をこの国に根づかせたいと思っている。「地方自治は民主主義の学校」と言われるから、まずは、地方自治の学校に入学してもらわなければならない。地方自治の現場では何が起きているのか。それを、単なる見物人の立場に留まることなく、自ら行動し、発言する主体として目覚めるには、それなりの仕掛けが必要である。まずは、次代を担う若者が目覚めなければならない。大学で地方自治について教えることは、目覚まし時計としての役割以上のものでなければならないとは思いつつも、まずは、アサノネクストの一年目は、その辺から始めてみようと、現在挑戦中である。


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