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月刊ガバナンス平成18年11月号
アサノ・ネクストから 第11

談合問題

 公共事業の入札にからむ談合問題。福島県知事の辞任、逮捕にまで発展したり、和歌山県では出納長が逮捕されたり、いくつかの自治体で大きな問題になっている。

  私も、宮城県知事時代に、入札制度の見直し・改善を行ったが、その契機になったのは、官製談合で県庁内にも逮捕者を出したことである。私自身が、前知事のゼネコン汚職での逮捕を受けた出直し知事選挙で知事になったという経緯がある。県庁として、談合問題には、ことさらに厳しく対処していくべき立場であったから、官製談合が明るみに出た時は、大きなショックであった。

 談合問題のむずかしさは、関わっている人たちに罪悪感が希薄であることである。被害者が特定できない、昔からやってきている、誰もがやってきている。スピード違反に似ている。ばれるのは、運が悪いから。みつからなければ、やるのは普通。みつからないようにやるのが、プロの仕事といったぐらいの感覚なのだろうか。「談合は悪だ」と言うと、「悪」の前に「必要」をつけたがる輩が出てくるから適当でない。「談合は犯罪である」を繰り返さなければならない。

 三分の理のようなことが主張されるのが、談合問題のもう一つの特徴である。地元企業の育成のためには、地域限定型の入札にすべきだと主張する一群の人たちがいる。そのことが、談合をやり易くすることにつながっていることを認識しなければならない。地域限定して競争性を抑えるということは、地元企業間の競争が不十分になり、本来であれば市場から退場するような企業を温存することにつながる。長い目で見た地場産業の育成にならないことにも気がつくべきだろう。

 入札での競争が激しくなると、低価格で落札する企業が出てくる。ダンピングで工事の手抜きがおきやすくなるといって、批判する人たちが出てくる。どの程度を「ダンピング」と言うのかの問題もあるが、宮城県の例で調べたところ、低価格での落札事例と高価格での落札事例とで、工事の質に有意な差はないことが明らかになった。大事なことは、落札価格うんぬんよりも、工事の品質をどのようにチェックするかという方法の問題である。

 気になることは、談合に裏金が関わることである。天の声を発する人への御礼として、金銭がからんでくる。その金銭を誰がどういう場面で必要とするかといえば、選挙という答が透けて見えてくる。首長選挙、議員選挙、いずれも同じである。「しょせん、選挙には金がからむもんだ」、「知事と議員との正常な関係とは、持ちつ持たれつのこういったもんだ」、「政治とはこういうもんだ」と嘯く「モンダの人々」(私の造語)のしたり顔が浮かんでくる。

 「モンダ」にからめとられてはならない。そのためには、知事、議員本人の自覚だけでは足らない。側近と言われる存在が「汚れ役」、「仕切り役」になるのではなく、むしろ側近こそが、知事などに関わるしがらみを作らせない「嫌われ役」を演じなければならない。

 最近の談合事件に接するにつけ、私の知事時代に私のそばにいた「嫌われ役」を思い出すことになった。


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