![]() 中央公論2007年1月号 『三位一体改革と地方 税財政ー到達点と今後の課題ー』(神野直彦編著)の書評 宮城県知事として、私も三位一体改革の実現に大きなエネルギーと時間を注いできた。そんな立場から本書を読むと、これからの「闘い」の方向性が明確に見えてくる。 国と地方自治体の財政関係の改革である「三位一体改革」の経緯を、詳細にわかりやすく説き起こしている。編著者が神野直彦東京大学教授、その他の著者陣は、自治省(現総務省)の実務者たちである。霞が関で実際の改革の議論の現場にいた立場から、外からはうかがい知れないやりとりも含めて、書き記しているのが特色である。 用語として、「三位一体改革」では、何を実現する改革かわからない。「地方財政自立改革」(私の造語)と呼び変えても、国と地方自治体とが財源をめぐる綱引きの図柄にしか見えない。神野教授が喝破する如く、地方分権改革の目的は、地方自治体の役割を「生活重視の政策」に転換し、「ゆとりと豊かさを実感」できる社会を実現することにある。そのための、地方消費税を国税の消費税を上回らせる抜本的税制改革の必要性が主張される。 改革のもう一つの目的を、神野教授は「下から上への流れを創り出し、参加民主主義を実現することにある」と説く。私が「ほんものの民主主義」を根づかせるための改革と呼ぶのと通じる。自治体の施策を、国からの補助金で実現するのか、住民の関わりにより実現するのか。どっちのシステムのほうが、成熟した民主主義国家として望ましいかは言うまでもない。 この数年間の三位一体改革の議論の経緯を解説した本書の記述を合わせ読めば、神野教授は研究者というよりも、「歴史の生き証人」の役割を果たしたことがわかる。その「歴史の生き証人」が、命を懸けて取り組んだ改革が、尻切れで終わっていいはずがない。ここまでの到達点を踏まえて、次の二幕目は、本書が訴える方向で大きく飛躍しなければならない。 改革の実現のためには、理論も大事であるが、第二幕は政治の出番である。知事職は退いたが、私としても、別な立場でその戦線に加えてもらいたいと思っている。
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