浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

 

2016年3月4日
自治日報
《自治

執筆原稿から

自治体の危機管理、対象の拡大

 各自治体における危機管理体制は、都道府県レベルでも市町村レベルでも、最近は格段に充実を見ている。阪神淡路大震災、東日本大震災という二度の大震災を経て、自治体の危機管理の重要性が広く共有されている。

 危機管理は、災害に関するものだけではない。自治体として、未経験の状況が現出したらどう対応するか、予め備えておくことが必要である。そういった「未経験の状況」としては、国際情勢の変化によるものが考えられる。具体的にどんなことがあるか、見てみることにしよう。

 「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」(略称「国民保護法」)が2004年に成立した。武力攻撃事態や緊急対処事態などに際して住民の避難・救援に必要な場合、一定の範囲で私権を制限することを容認することなどを定めている。いわゆる有事法制の一つであり、住民に対する避難指示や救援活動は都道府県中心で行うこととされている。当時、宮城県知事として住民保護のための計画を策定したが、正直なところ、計画が実施されることはないだろうと思っていた。

 国民保護法成立から10年以上経った現在、武力攻撃事態発生の可能性は、無視できないほど高くなった。一番気になるのは北朝鮮の動きである。若すぎる独裁者、金正恩第一書記が国際社会からの圧力を受けて、いつ暴発するかわからない。現に、国威発揚か米国への脅しかわからないが、核実験をしたり、弾道ミサイルを発射したりしている。弾道ミサイルが日本に向けて発射される事態も想定しておかなければならない。

 武力攻撃への直接的対応は、国のやるべきことではあるが、住民保護は自治体(都道府県)の役割である。正しい情報が提供されなければ、住民保護の体制は組めない。武力攻撃として、ミサイルがいつ、どこに向けて発射されたのかといった情報は、国に頼るしかない。危機管理の必須条件として、まずは、瞬時に情報が伝達されるシステムを国との間に構築しておくことが求められる。

 同じく、北朝鮮のことであるが、北朝鮮が国家として崩壊する可能性も考えておかなければならない。国家崩壊となれば、大量の難民が発生する。難民の保護は国に任せておけばいいというものではない。なにしろ隣国である。大量の難民が発生すれば、自治体としても、難民の受け入れに相当の役割を果たさなければならなくなる。準備なくして、円滑な受入れはできない。これも危機管理の課題である。

 難民の受け入れは、将来の問題ではなく、現在の問題でもある。中東情勢の悪化に伴い、多くの難民がヨーロッパ各国に押し寄せている。日本は、厳格な難民認定基準もあり、これまでも難民の受け入れ人数は毎年十数人と極端に少ない。これに対しては、国連をはじめ、外国から「受け入れ増やせ」の要請がある。シリア難民の激増もあり、日本も難民受け入れに応分の役割を果たさずにはいられなくなる時期が来る。外国からの圧力もあるだろう。いずれは、自治体での受け入れにも応じざるを得なくなる。これに予め対処するのも、危機管理の一つだろう。

 もう一つ、今までにない危機管理として、外国勢力によるテロへの対策がある。テロ対策は、警察、消防に任せていいものではない。テロ予防で、住民が関わるべきことはある。地域に不審な外国人が出没していることを自治体や警察に通報するという形で、住民がテロの未然防止に寄与することができる。このことを自治体として徹底することも、危機管理としてなされるべきものである。

 国際情勢の変化というか、悪化というか、それに伴い自治体の危機管理が対象とすべき事象が広がっている。自治体の危機管理の役割が大きくなり、それだけ自治体の負担を増やすことになるのはやむを得ない。危機管理の要諦は、自治体住民の保護である。これこそが、自治体存立の理由であり、これほど大事な仕事はない。そのことを強調しつつ、自治体で危機管理業務にあたる職員の皆様の奮闘努力を期待したい。


TOP][NEWS][日記][メルマガ][記事][連載][プロフィール][著作][夢ネットワーク][リンク

(c)浅野史郎・夢ネットワーク mailto:yumenet@asanoshiro.org