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2013年5月17日
自治日報
《自治

執筆原稿から

過疎高齢化の自治体

 国立人口問題研究所が、このほど発表した2040年までの人口推計によると、自治体の人口は、軒並み減少する。特に、町村の人口減が著しい。全国で56村が、人口1,000人以下となる。こういった小規模な基礎自治体は、どうしたら自治体として成り立っていけるのか、今から対応を考えておかなければならない。

 近隣の自治体と合併して、規模を大きくすればいいというのは、安易に過ぎる解決方法である。合併により、広大な面積を持ち、人々がまばらに散らばって住む自治体ができるだけのことである。人口が少ないのに、まとまりのない自治体では、住民は自治体としての一体感を共有できない。

 今さら地域起こしでもないだろう。地域起こしができるものなら、もっと早くからやれていたはず。「観光でまちづくり」といっても、観光資源をにわかに掘り起こすのはむずかしい。そもそも、外から人を呼び込むという発想では、対処できない。

 人口減少は、さらなる高齢化と一緒にやってくる。高齢化を従属人口の増大という、厄介な問題ととらえる視点からは、解決法は生まれない。2040年ごろの高齢者は、現在の高齢者より、よほど元気で活動的な人たちである。元気な高齢者を「戦力」と考えるべきである。

 地域の中での高齢者の介護、お世話を地域内で自己完結するものとしてとらえる。つまり、元気な高齢者が、地域内のお仲間高齢者の面倒を見るということだが、これは過疎の山村のほうがとりやすい。キーワードは、「地域の中で」と「元気な高齢者」である。

 元気な高齢者は、地域内で生産的活動に従事できる。産業としての農林水産業とは一線を画した、趣味、生きがいに近い活動は、十分にできる。過疎地ならではの自然の恵み、遊休土地の存在は、高齢者の活動にとって、いい条件である。

 自分の家の庭先にある畑で、野菜づくりをするのが、一つの例である。地域内の仲間と一緒にやれば、どんなに楽しいか。野菜の収穫は、自家消費できるだけでいい。

 地域での生活ぶりを変えることにより、過疎高齢化は恐れることではなく、歓迎すべきことに転換できる。「変える」というよりは、地域の特性に合わせた生き方といったほうがいい。

 人口減の自治体をどうするか、行政面から一言。人口千人未満の村で、「フル装備」の行政は期待できない。行政の一部を県が肩代わりするという形を取ることが考えられていい。合併により、フル装備の自治体を目指すよりは、よほど現実的な対応である。

 自治体とは、そこに暮らす住民が近隣と一体感を持って定住する空間である。一体感にはいろいろな形があるが、コミュニティとしての仲間意識、歴史の共有、自然空間としてのまとまりとして感じとられる。つまり、国などの都合により、政治的、人為的、作為的に簡単に決められるものではない。自治体のありようは、住民が決めるという「住民自治」の原則に立ち返るべきである。

 過疎高齢化の自治体の問題を、行政効率の視点だけで処理してはならない。小規模な基礎自治体は存続できなくなる。自治体とは住民の集まりであるという原点に立ち返って考えれば、別な解決方法があってしかるべきである。市町村合併、道州制の議論においては、行政効率の視点があまりにも重視されているのではないかと危惧する立場から、この過疎高齢化の自治体の問題に対応していきたい。


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