浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

 

2007年2月3日
毎日新聞
《論点》
執筆原稿から

「そのまんま現象」を読み解 く
旧体制との距離が勝因

 東国原英夫知事の誕生は、「宮崎ショック」と呼ばれるほどの現象である。元タレント、行政経験なしという経歴は、むしろプラスに働いた。ふつうの任期満了に伴う選挙ではない。出直し知事選挙である。有権者には、東国原さんが旧体制と最も遠い位置にある候補者に見えた。

  現職知事逮捕で恥をかき、怒りに燃えた宮崎県民の想いは、これまでの体制への嫌悪感として凝縮した。そういった選挙では、有権者の共感は、体制に近いと思われる候補者には向かわない。県民の改革への期待は、政党、団体、業界の強力な支援を受けないで選挙を戦う東国原さんに集まった。

 私自身の知事選挙の経験から、「選挙のありようが、その後の知事のありようを決定づける」と信じている。しがらみのない選挙、正々堂々たる選挙を戦った東国原知事が、知事として正々堂々たる仕事ぶりにならないはずがない。 新知事への県議会の反感は知事初登庁の日が最高。翌日からは、雰囲気はどんどん良くなる方向へ向かっている。県政改革の必要性を認識しているのは、県議会も知事と同じ。その知事を選んだ県民が、今度は県議会議員を選ぶ。理不尽な足の引っ張り方や意地悪をしたら、県議会のほうが、自分の選挙で県民からしっぺ返しを食う。

  行政未経験の新知事である。「宮崎県庁の常識は、県民の非常識」と言われた県庁組織で仕事を始めたら、驚きの連続であろう。その驚きの感覚こそが大事。「こんなんもんだ」という慣れが入ってきた時は、改革の矛先が鈍る時かもしれない。しばらくは、宮崎県庁のトップというよりは、県民から選ばれて県庁組織に送り込まれた存在と意識する場面のほうが多くあってしかるべきである。

  県庁の職員は、新知事の言動の本気さを試している。上目遣いに見ている。東国原知事は、職員への新任あいさつで、県庁の裏金問題に手をつける決意を語った。語ったからには、実行して結果を出さなければならない。この問題への対応がうやむやで終わると、県庁職員は、新知事の決意も大したことないと多寡をくくる契機になってしまう。最初が肝心。職員に甘く見られては、後々まで尾を引く。早くも、最初の試練が、この裏金問題でやってくると覚悟したほうがいい。

  東国原知事誕生の要因は、彼が立候補したことが第一である。「どうせ勝てっこない」という声は、彼と親しい人たちの間で強かったはず。そんな声を乗り越えて立候補した彼の勇気と決断が、今回の快挙につながった。今年は、これから16の知事選挙が行われる。「現職知事は磐石」、「相乗り候補は絶対本命」という雰囲気が蔓延し、対抗馬が出にくい状況がある。有力候補が実物大以上に大きく見える現象である。「宮崎ショック」は、この現象に風穴を開けた。立候補する勇気が、有権者に選択肢を与え、選挙に関心を集める。結果が伴えば、宮崎県のように、有権者も参画する政治改革につながっていく。



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