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厚生福祉 2006年4月21日


非専門家の役割


 障害福祉の仕事は一部の人たちのものと思われている。「あわれでかわいそうな障害者にいいことをやってあげること」という感覚である。  これでは世の中は変わらない。障害者が各種の芸術に挑戦する「とっておきの芸術祭」、知的障害者のスポーツであるスペシャル・オリンピックスなどのイベントを通じて、一般の人、つまり非専門家に障害者のありようを身近に感じてもらうことも必要である。しかし、こういうイベントだけで、一般の人を障害福祉の世界に巻き込んでいくのには限界がある。

 最近注目しているのが、「それと気づかせず巻き込む方法」である。わかりやすいのが、障害者雇用の場面。知的障害を持ったA君が会社就労を果たした時の、その会社の同僚、経営陣は非専門家である。仕事をする場面では、同僚はA君に仕事を教えたり、仕事を通じて社会のありよう、常識、会話の仕方などを教えることが多い。要所要所に専門家の関わりは求められるにしても、障害者を支える場面では、非専門家が主役に見える。

 小規模多機能施設では、認知症の高齢者が知的障害者を支える場面が見られる。その逆に、知的障害者が高齢者を支援することもある。「お互い様」というのが、地域のありようそのものだとすれば、地域の中の小規模多機能施設が、まずは最もわかりやすい形を見せてくれている。

 一般の人を、無理やりにでも、障害福祉に巻き込んでいくには、介護保険に障害者を取り込むことが近道である。こうでもしなければ、障害者自立支援法ができても、事業実施のために必要な財源は生み出せない。障害者が取り込まれることによって、介護保険の保険料が引き上げられるが、その時に「なぜ保険料が上がるのか。そうか、自分たちも障害者になる、または障害者の親になる可能性があるからだ」と思ってもらうことが私の狙いである。そうなって初めて、「障害者は非専門家も含めて、我々みんなの問題」という理解が広がることになる。

 非専門家を障害福祉の世界に巻き込むというのは、こういう大きな意味も持っている。この趣旨を世の中に浸透させていくことが、私の使命であると思うようになってきている。


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