浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

 

2005年12月17日
毎日新聞 論点
主張 提言 討論の広場


■福祉サービスに原則一割の自己負担を求める新制度が来年度4月から施行される■

どうなる 障害者自立支援
執筆原稿から


在宅支援強化が急務

支援法は地域福祉の流れ推進する力
市町村社会福祉協議会の役割が重要

 就労支援も含む在宅福祉の重視という、就労支援自立支援法の目指すところは明確であり、積極的に評価できる。支援対象に精神障害者を取り込むことは、画期的である。09年に見込まれる介護保険の改正で、障害者の介護保険への統合の地ならし的な意義もある。

 障害者の受益者負担強化といった部分もあるが、介護保険への参入を考えれば、避けられない方向と受け止める。これをどう評価するかは、運用次第の面があろう。所得水準に応じて負担の上限が決められたが、家族と同居する障害者の場合、「同一世帯」の決め方を懸念していた。特例措置を設けることにより、成人障害者の自立という趣旨に反しない、ぎりぎりの線を維持できたのではないだろうか。

 施設福祉から地域福祉への流れは、後戻りできない。施設を運営する側の都合や、親の意向によって、障害者の地域生活への移行が阻害されていないか。大事なことは、「本人に聞け」である。

 宮城県では、04年2月に、「みやぎ知的障害者施設解体宣言」がなされ、重度障害者の大型施設である船形コロニーをはじめ、地域生活移行が計画的に進められている。自立支援法の成立は、この流れを進める際の大きな力として期待されている。

 課題は、法の趣旨を現場でどう生かしていくかである。在宅支援のためのサービス提供を誰が行うか。人員の質的、量的確保は、現状でははなはだ心許ない。

 全ての市町村で在宅支援の体制が確立しているとは、とても言えない。高齢者への在宅介護の体制は、まがりなりにもできあがり、現場での方法論も浸透しつつある。これに対して、在宅障害者の支援については、体制のみならず、基本的知識さえ不足している状況である。特に、精神障害者への施策はどこからどのように始めたらいいのか。問題意識を持った市町村では悩み始めている。むしろ、その問題意識さえ持つに至っていない市町村が多いことが気にかかる。

 地域によっては、市町村社会福祉協議会の役割が重要となるであろう。人材養成、専門性の確保、ネットワークの確立といった面で、県の社会福祉協議会の支援も求められる。いずれにしても、サービス供給側の強化が急務である。就労支援にしても、一定水準以上の賃金を保障できる仕事を、障害者にどう用意するか。これまでの積み重ねが、あまりにも不足している。

 痛感されるのは、わが国の福祉サービスの歴史の中で、施設処遇に比較して在宅処遇が軽視されてきた事実である。施設処遇にあたる職員の待遇は、不十分とはいえある程度のものになっている。一方、障害者の在宅支援にあたる職員の待遇は、さらに低い。これで良質で経験豊かな人材が確保できるだろうか。

 施設福祉から地域福祉への流れは、この部分においても徹底されなければならない。それによって初めて、自立支援法の趣旨が生きることになる。残された時間は少ないことが気になってならない。



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