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厚生福祉 2005年10月25日


医療費問題と県の役割


  現在26兆円の国民医療給付費は、「このままでは」毎年4%伸びる。20年後には現在の二倍を超える。公費負担も10兆円から28兆円に膨らむ。財政再建にとっては、医療給付費の抑制が不可欠とする財務省の立場もよくわかる。

 何らかの抑制策が必要である。医療保険における自己負担の引き上げ、医療保険のカバー範囲の縮小、薬価の後発品までの引き下げ、診療報酬引き下げなどが抑制策として候補に挙がっている。

 疾病予防が医療費抑制につながる。糖尿病予防を徹底すれば、糖尿病患者を大幅に減らせる。終末期医療を在宅で行えば、医療費削減も可能である。こういった施策は、患者負担を増やすものでないという意味で、望ましい医療費抑制策である。

 現実に、宮城県では在宅ホスピスケアの試みを早くから実施している。医師、看護師、薬剤師、ケアワーカー、行政がチームをつくって緩和ケアに取り組む。健康づくりは、宮城県内の市町村において広く行われている。これに県が積極的に関与する場面が、今後増えていくはずである。

 留意すべきことは、これら施策を、医療保険抑制策と位置付けたのでは、実施する県の気持ちとそぐわないことである。自治体が予防医学に取り組むのは、住民に健康な老後を迎えてもらうことが、自治体の責務と考えるからである。結果として医療費の軽減になるとしても、それが目的というのでは、住民の理解も得られにくい。

 年金の支給開始年齢の引き上げも、年金財政のためとしたのでは、受給予定者は納得しない。60歳で現役引退されては困るという、社会としての要請がある。そういった雇用情勢があるから、相当高年齢まで働くのが常態化する。そうなれば、年金支給開始も引き上げていい。こういう説明でなければ納得は得られない。

 「金がないから」「財政が大変だから」と説明するのは簡単。国民は納得せざるを得ないだろうというのは、霞が関の役所的な発想法である。自治体は直接に住民を相手にしている。地域の立場からは、医療費ではなく、どうやって住民の健康を守るかが一番の関心事である。わずかなズレに見えるが、問題の本質を見誤ってはならない。これが、医療費問題を考える私の立場である。


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