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讀賣新聞 2004年8月17日
《論陣 論客

地方からの補助金削減案


国と地方の税財政を見直す三位一体改革 で、政府は3兆円の税源移譲に伴う補助金廃止案を地方に求めた。全国知事会は18 日からの会議で廃止案を決める。義務教育の国庫負担金廃止などをめぐり、意見対立 が続く。
聞き手・解説部 青山彰久
●なお、当サイトでは浅野史郎とのインタビュー記事の部分を掲載します。

自立と分権の思想必要


―政府の要請で地方が3兆円の補助金廃止案を出す意味とは何だろうか。
―政府の要請で地方が3兆円の補助金廃止案を出す意味とは何だろうか。
浅野  本来は政府が行う作業だという意見はある。ただ、その作業を政府の要請で行ったからといって、我々の補助金廃止リストが最終決定案になると誤解したらとんでもないことになる。各省では、地方が要望したからといって廃止する補助金は一つもないはずだ。それを我々が押し返すことになる。12月の予算編成に向け、これから戦端が開かれるということだ。

―改革は戦いだと。
浅野  間違いなくそうだ。野球で言えば、三振をとろうと投手が投げた球を 打ち砕く戦いが、これから 始まる。知事会は昨年秋、 8.9兆円の補助金廃止案 を公表して選手を決めた。 今回のリストは廃止補助金 の優先順位を示す。9人の 打者をそろえた打順表にあ たる。こうして3兆円の廃 止案を決め、地方の自由度 を高めるために廃止すべき 補助金を求める。

―だが、知事会でも合意は容易ではないだろう。
浅野   政府は3兆円の補 助金削滅を閣議決定した。地方が合意しきれず廃止案が3兆円に満たなかったら、打者が8人にしかならず試合放棄したようなもので、そうなれば政府は国の補助割合を下げるだけの削減案を逆提案してくる。
  廃止リストを出してみろと言われた我々に今必要なのは地方財政自立の原理だ。リストに自立と分権の思想がなければならない。

―焦点の一つに義務教育費の国庫負損金がある。
浅野   廃止リストでは9番打者かもしれないが、廃止反対論の問題はその理由づけにある。文部科学省は、義務教育の予算内で自由に使える「総額裁量制」を始めた。これを評価する知事がいる。だが、これを認めれば、各省は全部の補助金にこの手法を使う。我々は、補助金の使い勝手をよくする運動をやってきたのではない。負担金・補助金である限り、地方が努力して効率化しても財源を他に使えない。ここを見落とすような議論は危険だ。

―廃止すれば教育水準が落ちるという論もある。
浅野  知事が言うのはおかしい。我々首長が義務教育に使わずに道路や橋に使ってしまうから廃止できないという主張は、首長のでたらめな行動を抑える役割を国に要請し続けるという矛盾した論だ。補助金・負担金の廃止とは、首長がどの分野にいくらの資金を充てるかの監視の役割を納税者に渡すことを意味する。 意思決定の途中段階から人々にさらされる情報公開制度があり、法律で義務づけられた義務教育の水準を落とせばすぐにばれる。
  義務教育サービスは地域の子供に教育を授けるのだから、本来、福祉と並んで極めて地域的なものだ。だから、住民にとって自分が税金を納めているところに関心を持たなければならない仕組みにすべきだ。それこそが民主主義だろう。
  離島やへき地の義務教育費が不足する問題は、地方交付税制度で支えて確実に解決しなければならない。

―公共事業や社会保障の分野はどう考えるか。
浅野   公共事業の補助金こそ廃止の4番打者だ。霞が関が決める補助金が来るかどうかで自治体の政策判断が翻弄される。しかも厳しい財政で「あれもこれも」ではなく「あれかこれか」の判断が重要な今だからこそ、この補助金の廃止が必要になる。財源が建設国債だから廃止しても税源移譲につながらないと自己規制すべきではない。
  社会保障関係は、国の負担率の単なる引き下げになり、地方の裁量拡大にならない。昨年の生活保護費の国庫負担引き下げ案は地方の抵抗で取り下げられたが、こういう案は地方財政自立とは相いれない。

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