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厚生福祉 2003年1月7日号から

「施設解体宣言」

 昨年の11月23日、宮城県福祉事業団の田島良昭理事長は、「福祉セミナー・イン・みやぎ」にて、「船形コロニー解体宣言」を発した。船形コロニーは、福祉事業団が県から委託を受けて運営をしている知的障害者の入所施設である。入所者400人以上の大規模な施設を「解体する」というのだから、当然ながら大きな反響があった。

 県から委託を受けている側の事業団が、県と十分に話もせずに勝手に「店じまい」を宣言するとは、なにごとか。理事長のとんでもない越権行為であり、手続き論からも大問題であるという批判が、県議会から巻き起こった。施設を解体しても、地域には受け皿がない中で「施設解体」ということになったら、入所者は困り、保護者は不安ということになるのではないか。こういった実体論からの意見も、各方面から表明された。

 もっともな批判である。手続き論は、どこまでもつきまとう。「大改革なんだから、ある程度の手続き無視は仕方がない」ということにはならないだろう。地道に、多くの人を巻き込んだ経過をたどる必要があるのは当然である。

 内容に踏み込んだ議論は、もちろん欠かせない。「解体宣言」という刺激的な言い方であるから、「大変だ、大変だ」という反応になる。出発点は、入所者にとってどういう暮らし方が最もいいのかという問題意識であることを考えれば、受け皿なしの追い出しなどということが想定されているはずがない。県も事業団も一緒になって、地域での支援策を用意していかなければならない。そういう方向に進んでいこうということこそが、「施設解体宣言」の真意だと思われる。

 宮城発のこの動きが、全国にも大きな波紋を広げることだろう。最も基本になるのは、「ところで皆さんはどうしたいのですか」という問い掛けを、障害を持っている人たちに発することだろう。そういった問い掛けさえもが、施策を供給する側の一方的な都合で封じられてきたのだから。

 来年度から、障害者施策に支援費制度が導入される。この制度は、障害者が地域で生活し続けていけるように支援するためのものであると理解している。まさに、この時期に、障害者施策の歴史が大きく動こうとしていることを感じる。


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