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Review No.42
季刊 地域精神保健福祉情報 vol.11 No.2


障害者プランの原点は
地域のなかにある

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車座集会で聞いた
精神障害者と家族の声から

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 2001(平成13)年の秋、私は、三選を目指した宮城県知事選挙の期間中、多くの精神障害関係の人達の生の声を聴く機会がありました。「車座集会」と称して、文字通り車座になって、お話を聴く場です。場所は、ご自宅、作業所、集会所とさまざまでしたが、全部で10か所以上になりました。17日間の選挙期間中、144か所で車座集会を開催したのですが、ざっとその1割が精神障害関係だったことになります。  

 改めて、宮城県内の各地域で暮らす精神障害者とそのご家族が、厳しい生活環境の中で、どんな悩みを抱えているのかの一端をお聞きすることができました。障害者プランをどう策定するか、その原点は現場であるそれぞれの地域の中にあるはずです。地域の声として集めた情報の中から、私なりに問題の所在と解決の方向を探ってみたいと思います。


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福祉施策の遅れ、きびしい現状
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 精神障害者は、福祉の分野に最も遅くやってきたと言えるでしょう。福祉施策というよりは、医療が先にきて、地域での生活をどう支援するかという分野は、二の次になったということもあります。また、精神障害にまつわる世の中の偏見の存在も、後回しになった理由の一つに上げられるでしょう。

 理由はともかく、精神障害を持った人達が、地域で人間らしく生きるための条件は、極めて厳しいのが実態です。車座集会の場で、そういう訴えを何度聞いたことでしょう。年老いた親が、50歳を越えた障害者を「この子」と呼びながら、「この子を残して死ねない」という言葉を洩らすのです。

課題@ 働く場の確保

 精神障害者が、親に心配をかけないで地域の生活を送るための条件のひとつが、働く場の確保です。一般就労ができればいいのですが、なかなかむずかしい。そういった人達にとって、小規模作業所が次の選択としてありますが、宮城県内でもその数は充分ではない。あっても、受け入れる人数に限りがあって、通えない。多くの作業所では、指導員が充分ではない。「充分でない」というのは、数の上でも、そして、質の面でもということです。

課題A 小規模作業所の機能強化

 小規模作業所の機能としては、文字通り、作業をする場ということのほかに、精神障害者からのさまざまな相談に応えることが求められています。さらにいえば、地域生活支援センターのような役割も期待されます。わが宮城県では、2002(平成14)年度予算で、小規模作業所のうちでも、そのメニューの中に相談機能を持っていたり、職員の資質向上のための研修を受講しているところには、補助金の上乗せを行なうことにしました。小規模作業所の機能強化が、課題になっています。

課題B グループホームを増やす

 住宅の問題としては、グループホームの果たす役割が期待されています。宮城県では、早くから、精神障害者のためのグループホームの施策を進めてきました。しかし、まだまだ数が足りません。また、グループホームでの生活を始める前段階としての、訓練の機会を持つことも求められています。公営住宅を利用したグループホームを用意している町もありますが、まだまだ少数です。こういった課題を解決していく必要があります。  

課題C つどいの場の一般事業化

 それほど大それた施策ではありませんが、精神障害者のつどいの場が好評です。宮城県では、コミュニティ・サロン・モデル事業として、精神障害者が気兼ねなく集まってくつろげる集会所を開設しています。まだモデル事業に止まっていますが、事業効果を見れば、一般事業化することの検討が必要でしょう。  

 やっと始まったばかりと言える、精神障害者の地域生活を援助するための施策で、宮城県が力を入れているものを紹介しました。しかし、これらの施策は、量的にも質的にもまだまだです。多くの精神障害者の希望に充分に応えるまでには至っていません。これから相当なスピードで進めていかなければなりません。

課題D 社会的入院の解消

 解決すべきもう一つの大きな問題は、社会的入院の解消です。地域生活の支援施策さえ充分に用意されていれば精神病院から出ることができる多くの人達が、入院を続けています。病院から直接自宅に戻ることがむずかしいケースについては、ハーフウェイハウス(中間施設)が必要でしょう。宮城県では、定員20人の援護寮が、古川市にある県の精神保健福祉センターの隣に設置されていて、そんな機能を果していますが、しょせん20人分では需要を満たすことができません。

課題E 人権の擁護

 精神障害者にとっての、もう一つの大きな課題は、人権の擁護だと思います。これは、高齢者、知的障害者、児童など、自分で自分の権利を守ることが、極めてむずかしいカテゴリーに属する人達に共通です。人権擁護のための機関が必要です。見える存在、利用しやすいものでなければなりません。そのためには、むしろ、民間の機関のほうが期待に応えられるのではないかと考えています。行政は、それに対する支援をすればいいのです。

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市町村への支援が求められる
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 さらに、精神障害者に対する支援事業のほとんどが、県ではなくて、市町村で行われることの意味を真剣に考える必要があります。市町村の中には、精神障害者への支援の実績がほとんどないところも少なくないはずです。支援のノウハウがあるかどうか、さらには、その意欲があるかどうか、それらがあっても、財源が振り向けられるかどうか。心配の種は尽きないと言えます。

 県として、市町村への支援が必要となります。それに加えて、財源の問題を考えれば、介護保険の対象に精神障害者を加えるような制度改正が必要になってきます。もちろん、知的障害者、身体障害者についても同様ですが、2005(平成17)年の制度見直し時期をにらんで、そういった運動を始めることが、今から求められます。

 

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現場の声、社会の共感を集めながら障害者プランをつくる
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 このような問題を考えるにあたっては、国とか自治体の真剣な取組みももちろん不可欠ですが、社会一般に対する、精神障害者の問題についての正しい知識の普及も必要です。その意味で、障害者プランの作成が、行政の中だけでの作業に終わったのでは困ると思います。現場の生々しい声をどうやって吸い上げるか、国民一般の人達に問題の存在をどうアピールするか、社会全体の共感をどう集めるかが、ポイントになるでしょう。


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