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浅野史郎メールマガジン バックナンバー

浅野史郎メールマガジン ━━━━━━━━━━━━━━━━━━2004/9/14
http://www.asanoshiro.org/                  第158号
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> <<目次>> <

 [週刊コラム・走りながら考えた]
  ○「力の論理とテロの連鎖」(浅野史郎)

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 ○「力の論理とテロの連鎖」(浅野史郎)

 同時多発テロ、あの9.11から3年目。ニューヨークの現場、グランド・
ゼロには、今年も多くの人たちが集まって、犠牲者を悼む式典が行われた。
世界貿易センタービルの崩壊で亡くなった死者は約2700人。そのうち、
身元が確認されたのは約1500人にとどまっている。4割以上の犠牲者の
身元が明らかになっていない。悲劇は、まだ中途半端な終わり方しかしてい
ないことになる。

 9.11の直前、8月30日から4日間にわたり、ニューヨークのマディ
ソン・スクエア・ガーデンで、共和党大会が行われ、共和党の大統領候補
に指名されたジョージ・ブッシュ大統領が受諾演説で、イラク戦争の大義を
高らかに述べた。そのあとに、「このニューヨークの地にビルは倒れた。だ
が、同じこのニューヨークの地から我が国は立ち上がった」と付け加えた。
9.11の犠牲者の遺族のみならず、比較的リベラル派が多いニューヨーク
の住民たちは、この演説をどういう気持ちで聴いただろうか。

 思えば、この同時多発テロからイラク戦争へと突っ走ったアメリカであっ
た。同時多発テロの実行犯にアルカイダが関与している、テロ組織アルカイ
ダとイラクとは関係があるという「情報」を元に、イラクと同時多発テロを
結びつけた。そして、「大量破壊兵器」である。イラクのサダム・フセイン
政権が密かに保有している「大量破壊兵器」をテロリストに供与する可能性
があり、その廃棄に応じないから、イラクに武力行使をする。しかも、フラ
ンス、ドイツなどの有力国の慎重論を押し切っての「先制攻撃」であった。

 テロ実行犯とイラク政権との関係が証明されていない。また、「大量破壊
兵器」は、結局は、存在していなかったということも明らかになりつつある。
イラク攻撃の大義名分には、大きな疑問符がつきつけられているにもかかわ
らず、「ニューヨークの地から我が国は立ち上がった」とやられたのでは、
ニューヨークの人たちは複雑な反応を示すしかなかろう。

 そういえば、あの9.11の現場で、ブッシュ大統領は「これは犯罪では
ない、戦争だ」と絶叫した。しかし、テロを犯罪ではなく、戦争と見るとこ
ろから、テロの連鎖が始まるのではないかと思わざるを得ない。

 言葉を厳密に使わなくとも、テロは戦争そのものではないことは明らか。
犯罪であるから、犯人を探し出し、つかまえて、自らが犯した罪にふさわし
い罰を与えるという、通常の手続きをとることが先決であろう。テロの現場
で「戦争だ」と絶叫することによって、テロの犠牲者、テロの恐怖に怯える
国民の心情にはアピールすることになった。このことが、イラク国民にとっ
てだけでなく、アメリカ国民にとっても、そして全世界にとっても、悲劇と
いえば悲劇の始まりである。つまり、恐怖心とか、復讐心といった心情的な
ところで、戦争の正当化が行われた。

 その後に起こった「イラク戦争」。2003年の3月に開始されたこの戦
争は、そう呼ぶには何ともあっけないほどの短時間で、戦いの相手方たるイ
ラク側の本格的な抵抗もないままに終結した。アメリカによる、圧倒的な力
の誇示である。勝負にならない。そして、我々が今見ているのは、本当にあ
の戦いでアメリカは勝ったのだろうかという疑問が生まれるような現実であ
る。イラクの市民が1万人以上亡くなっている。そして、アメリカ兵も
1000人近くが命を落としている。本来の「戦争」での犠牲者に比べれば、
「戦後」における驚くほどの戦死者数である。

 アメリカだけではない。ロシア南部・北オセチアの学校占拠事件では、
300人以上の犠牲者、その大部分が子供という結果になった。チェチェン
共和国がロシア連邦から独立することを要求しているイスラム教徒の武装グ
ループによる犯行と言われている。ソ連時代からの力の論理でのチェチェン
独立抑え込み政策で、チェチェン人の中に多くの犠牲者を生み出しているこ
とからくる「憎しみの連鎖」と見ることができる。

 一体いつになったら、どうしたら憎しみの連鎖からのテロの連鎖を断ち切
ることができるのか。「どっちもどっち」では解決にならない。最後にやら
れた側が自制をするしかないのではないか。そして、テロを未然に防ぐ、テ
ロは割りに合わないということを、事実として示すことも必要である。

 空港の搭乗手続きでの荷物検査が、とても厳しくなった。主要駅に警察官
の姿を多く見かける。それなりにテロへの備えはされているが、何よりもテ
ロの原因となるような憎しみの元を断たなければ、根本的な解決にならない。
安全を守ることには金がかかるし、ビジネスにもなる。認めたくはないが、
こういった時代には、仕方がないことでもある。早く、安全で安心できる、
憎しみ、対立から解放された世界を取り戻したい。

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> [編集後記] <

 この負の連鎖を止めるためには、これから報復をしないこと。そして、報
復をしなくとも、お互いの主張を認めあえる場をつくること。そのための器
である「国連」を人類はすでに持っています。

 今現在、小泉首相が中南米・アメリカへ外遊に出ています。日本が国連安
全保障理事国になりたいとのアピールをしてくるとのこと。近い将来、日本
の国連大使が、安保理での戦争決議に、堂々と反論し、負の連鎖を止める大
きな力になることを願っています。

 それでは、来週の「浅野史郎メールマガジン」をお楽しみに。 (一馬)

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発行:浅野史郎・夢ネットワーク メールマガジン編集局 渡辺一馬


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