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浅野史郎メールマガジン ━━━━━━━━━━━━━━━━━━2004/8/24
http://www.asanoshiro.org/                  第155号
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> <<目次>> <

 [週刊コラム・走りながら考えた]
  ○「義務教育費国庫負担金廃止問題」(浅野史郎)

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 ○「義務教育費国庫負担金廃止問題」(浅野史郎)

 8月19日の正午、新潟市の朱鷺メッセにて前日の午後2時から深夜12
時まで、その日も9時から続いていた全国知事会の審議の終盤である。梶原
拓会長が、国庫補助金・負担金の廃止リストを含む三位一体改革案について、
挙手による決を採るにあたっての方針を説明した上で、「このことに文句の
ある知事は、私への不信任案を出してくれ」と意を決したように発言した。

 挙手による採決の結果は、40対7で原案可決。それまで実に我慢強く審
議を差配し、われわれ知事たちに言うだけのことを十分言わせる手法で、卓
越したリーダーシップを発揮しながら、ここまで持ち込んできた梶原会長で
ある。会長の血圧は、その朝、180を超えていたという。心身ともに限界
に達しているのではないかという心配もあった。そういう状況での、この歴
史的な方針決定である。感激で胸が震えるのを感じた。

 感激に身を任せているだけの余裕はない。戦いの本番はこれからである。
161項目に及ぶ廃止リストの1件、1件に対して、霞が関の各省は全存在
を賭けてつぶしにかかってくるであろう。それに対抗するための戦術をどう
するかということもあるが、ここでは、もう一度じっくりと論理構成を明確
にしておく必要があると感じる。

 知事会においても「賛否両論で紛糾」と評された義務教育費国庫負担金の
廃止問題について、その賛否の意見内容を分析することが有用である。廃止
反対論・慎重論の根拠は、まずは、これだけの額(今回廃止対象にする中学
校分で8500億円)の負担金を廃止しても、それに見合う税源移譲を含む
財源確保が確実にされるかどうか不明であるから、負担金の廃止はすべきで
ないというものである。

 反対論のもう一つの論拠は、この国庫負担がなくなると、(財源が乏しい
県や離島、過疎地を抱えた条件不利県では)義務教育の水準が下がってしま
うという不均衡を招くおそれがあるということである。義務教育は、あくま
でも全国共通水準を保つべきであって、こういう事態は絶対に許されないと
主張する。

 こういう想定まではせずに、単に、「義務教育は国の責任で行われるべき
ものであるから、国庫負担をするのは当然」という論も、全国知事会の場で
は多く聞かれた。これらの反対論に対しては、知事会の場で、私を含めて多
くの知事から反論がなされたが、改めて論じてみたい。

 最後の「義務教育は国の責任」ということから始める。国の責任というこ
とと、財源を半分負担することとは、直接の関係はない。つまり、財源負担
をしなくなることは、国の責任放棄にはならない。義務教育に対する国の責
任は、学校教育法などの法令で極めて厳格に義務教育のあり方を規定してい
ることで、十分に果される。本来、義務教育の実施は、市町村の自治事務で
ある。義務教育サービスの性格は、福祉サービスなどと同様に、その地域の
住民たる子女に対してのものであることから、地域密着型であり、国際貿易
港や高速道路の整備、通貨の統制など、文字通り「国の責任」でなされる仕
事とは性格が違う。

 知事会の決定と前後して、河村文部科学大臣から、6・3制に変わる制度
も各地域の決定で採用できるようにするという「改革」の方向が示された。
これは驚くべきことである。こういった基本的なことまでも「地域の裁量で
自由にどうぞ」ということになれば、国の責任の放棄にすら見える。義務教
育の根幹に触れる6・3制のようなものは、地域ごとに区々にやられていい
ものとは思えない。実際に、県を越えた引越しをした子女が、小学校6年生
に編入されると思ったら、中学校1年生になっていたなどということになる
のは、いかがなものであろうか。「全国共通の義務教育」ということに、
真っ向から反する事態ではないか。

 この「改革」案の提示で、「ほらこのとおり、知事さん方の裁量の幅はこ
んなに広がるのですよ」というメッセージを送りたいのだろう。カードを切
り間違えている。義務教育への国家の関わり、責任の堅持という、「義務教
育費国庫負担金廃止反対論者」が常に持ち出す論拠から見ても、これは禁じ
手である。こんな禁じ手を打たなければならないほどに、文部科学省は義務
教育費国庫負担金の廃止をさせたくないという思いが透けて見える。

 廃止反対論の第1と第2については、共通に論駁できる。「財源確保が十
分か」、「教育水準が下がるおそれ」という反対論であるが、反対論者は、
同じ「論理」をもってすれば、他の160項目の補助金・負担金廃止もやる
べきではないということになることに、気が付いていない。財源確保は十分
かということについて言えば、他の補助金・負担金廃止についても同じよう
に、十分に確保するということは、当然の条件である。義務教育費国庫負担
金8500億円の廃止だけでなく、残りの2兆数千億円の補助金を廃止する
際の懸念のほうが大きい。

 2番目の「教育水準が下がるおそれ」というのを、知事本人が言い出すの
は理解に苦しむ。上に書いたように、廃止に伴い地方への税源の移譲を含む
財源の確保は十分に行われるという前提の下に議論するとすれば、「教育水
準が下がる」という自動詞で言うのではなく、主語は「知事は」であるのだ
から、「教育水準を下げる」という他動詞で表現すべきものである。そう言
えば、反対論の矛盾が明確になる。

 この辺は、「地方分権とは何か」、「税財源の移譲の持つ意味」という本
質に関わる議論になる。今までは、義務教育の水準の確保というのを、国庫
負担に頼ってやってきた。今度からは、自前の財源で自由にやれるのだから、
知事の自由裁量である。下げるのも勝手。しかし、情報公開の時代に、自由
裁量だからといって、その県の義務教育の水準を下げるということになれば、
県民は黙っていない。まさに、義務教育のサービスは、地域サービスそのも
のであるから、地域住民は関心を大いに持っている。

 つまりは、義務教育の水準の確保を、国庫負担を握っている文部科学省に
やってもらうのか、住民自らがやるのかという選択である。そして、霞が関
にではなく、住民に任せるというシステムに移行するというのが、今回の地
方財政自立改革の真の目的である。決して、税財源をめぐっての国と地方と
の綱引き合戦ではない。

 実は、今の議論は、福祉サービスとか公共事業とかの事務にあてはまるこ
とであって、義務教育は一味違う。つまり、福祉サービスなどには、整備基
準は法令に明確に規定されていない。どの程度のレベルまで事業を行うかに
ついては、地方の自由裁量に大幅に任されている。これに対して、義務教育
は法令でかなり詳細に規定されていて、裁量の余地は少ない。お国がそうい
う法令を定めることによって、日本国中どの地域でも一定水準の義務教育が
保障されるようにする、これこそが「義務教育における国の責任」の内容で
ある。だから、地方の自由裁量といっても、法令の義務として一定程度の水
準が確保しなければならないのであって、「知事がさぼる」ということは実
際上できない仕組みになっている。

 義務教育費国庫負担金による下支えではなく、基本的には、地方の裁量に
より義務教育の実施がなされるということになれば、梶原会長が言うような
「善政競争」が教育の分野でも大いに展開されることになるだろう。それぞ
れの教育委員会の意気込みも違ってくる。住民と直接向き合っての教育論議
も、さらに活発になるだろう。義務教育費国庫負担金は、廃止の優先順位で
は9番バッターであったとしても、これを「聖域」として「触れるべからず」
としたのでは、地方財政自立改革の旗印を下ろさなければならない。そう
いった位置付けでの議論であることをわきまえて、今後の「戦い」に臨んで
いきたい。

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 夏が過ぎつつありますが、実はこの時期から「冷房病」がひどくなるそう
です。みなさん、体調管理にはお気をつけてください。

 それでは、来週の「浅野史郎メールマガジン」をお楽しみに。 (一馬)

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発行:浅野史郎・夢ネットワーク メールマガジン編集局 渡辺一馬


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