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浅野史郎メールマガジン ━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2003/12/16
http://www.asanoshiro.org/                  第119号
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> <<目次>> <

 [週刊コラム・走りながら考えた]
  ○「これが三位一体改革ですか」(浅野史郎)

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 ○「これが三位一体改革ですか」(浅野史郎)

 12月10日、政府・与党は平成16年度予算において、国から地方への
補助金を約1兆円削減することで最終的に合意した。同時に行われるはずの
税源移譲は、この時点では未定。移譲する額としては、1兆円にはるかに遠
い4,250億円程度、しかも、内容は所得税、消費税のような基幹税では
なく、たばこ税があてられるとの見方が示されている。

 厚生労働省分としては、公立保育所の施設運営費への補助金1,700億
円を一般財源化する。文部科学省分として、義務教育費国庫負担金のうち、
教員への退職手当と児童手当にあたる分2,300億円を一般財源化する。
この一般財源化は、税源移譲までのつなぎとしての特例交付金「税源移譲予
定交付金」をあてるとのこと。

 国土交通省は公共事業の見直しとまちづくり支援補助で3,254億円を
廃止する。まちづくり支援補助については、まちづくり交付金が財源手当て
としてあてられるが、公共事業のほうは財源手当てはない。

 さてさて、これをどう評価すればいいのだろう。地元の朝日新聞の記者か
ら問われて、「採点すれば30点」と答えておいたら、翌朝の紙面では「知
事、30点と酷評」という見出しをつけていた。点数はともかく、高く評価
できないことは確かである。

 厚生労働省の原案にあった、生活保護費負担金、児童扶養手当給付費負担
金の負担率を4分の3から3分の2に下げるというものは、さすがに撤回さ
れて、公立保育所の施設運営費補助金の廃止に変わった。「補助金・負担金
は原則廃止、例外的に残すものは・・・」という知事会の考え方の中で、
「残すもの」としてわずかな例外に入れておいたのが、この生活保護負担金
であった。残すべきものを真っ先に削減対象にしただけでなく、廃止ではな
く負担率の引き下げという方式できたのが大問題。このやり方が許されるの
だとすれば、補助率2分の1のものを7分の3にすれば、あっという間に霞ヶ
関全体で1兆円などできてしまうだろう。

 そもそもが、こういうやりかたでは、地方の自由な裁量による施策運営な
どには結びつくはずもない。その伝で言えば、義務教育費国庫負担金のうち、
退職手当と児童手当の部分だけ廃止するというのもおかしい。地方の自由な
裁量に結びつかない。だってそうでしょう。教職員の給与費本体の廃止であ
れば、義務教育においてどの分野にどの程度の教職員を配置するかを(法令
の範囲内において)自由に判断できるが、退職手当の部分だけと言われても、
どうやって裁量を働かせるのか。しかも、退職手当は、今後、年々増加する。
意地悪く言えば、文部科学省は、将来増えるだけで、裁量の余地がない、し
たがって面白みのない負担金の部分だけを地方に押しつけたということにな
る。しかし、こちらのほうは、知事会などの猛反対にもかかわらず、原案に
残ってしまった。

 国土交通省の公共事業の補助金廃止というのも、問題がある。同省の公共
事業補助金のうちの3%とか4%かという額である。この補助金の財源は建
設国債だから、地方への財源移譲は必要ないという「論理」もよくわからな
いが、結果としては、県の財源に10億円以上の穴があく。これを「成果」
であると評価せよと言われても、「やらずぶったくり」としか言いようがな
いではないか。

 ということで、今回の政府・与党の合意というものを、三位一体改革を大
きく進めたものであると積極的な評価をすることは、とてもできない。各新
聞の社説、見出しだけ眺めても、「理念に欠けるあいまいな決着」(読売新
聞)、「その場しのぎの1兆円」(朝日新聞)、「数字合わせに終わった補
助金改革」(日経新聞)と、いずれも積極的な評価にはほど遠い。なんでこ
んなことになってしまったのだろう。

 三位一体改革の趣旨、絶対にやり遂げようという意志を、地方と国とが、
もっとわかりやすく言えば、首相と霞ヶ関が共有していないというところに
原因がある。「三位一体改革をやろう」、「平成16年度で1兆円の補助金
削減を」と言っていた小泉首相は、税財源の移譲を含む地方分権の推進が、
この国にとってぜひとも必要なことは、十分理解していたと思う。霞ヶ関の
各省はそうではなかった。そんな必要なんてない、やるとしても、のんびり
やろう、どうせできないだろうと高をくくっていた。

 本気には、命を賭けてまではやりたくないとことにもってきて、霞ヶ関の
横並び体質。「なんでウチの省だけやらなくちゃいけないんだ」との思いは
あるし、その省にとって大事な補助金を召し出す幹部は「愛省心」(私の造
語)がないとけなされる。だとすれば、「1兆円出せ」の首相の指示は、査
定基準ともいうべき一定のコンセプトを示しつつ、「こういう性格の補助金
を全部出せ」、「具体的に〇〇補助金を出せ」といった具合にしなければ、
各省は影響の小さい補助金を影響が小さい形で出してくるに決まっている。

 その結果を、今、我々は見ている。さて、これからどうするか。第117
号のメルマガ「納税者にとっての三位一体改革」で書いたように、国民を味
方につけなくてはならない。納税者にとって、三位一体改革はなぜ必要なの
かを、地道にわかりやすく説かなければならない。

 それにしても、この結果を見るにつけ、「これが三位一体改革ですか」と
問い直さなければならない。

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> [編集後記] <

 期待していたものとはほど遠いものになってしまったようです。こうやっ
て、少しずつ「政府」や「政治」が私達から遠のいていくのでしょうね。

 補助金関係の仕事を地方に移してしまえば「仕事が少なくなって楽になる
のになぁ」とは思わないだけ、まじめということでしょうか。
 (もちろん、冗談ですが)

 それでは、来週の「浅野史郎メールマガジン」をお楽しみに。 (一馬)

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発行:浅野史郎・夢ネットワーク メールマガジン編集局 渡辺一馬


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