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浅野史郎メールマガジン ━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2003/10/21
http://www.asanoshiro.org/                  第111号
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> <<目次>> <

 [週刊コラム・走りながら考えた]
  ○「公的年金制度の行方」(浅野史郎)

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 ○「公的年金制度の行方」(浅野史郎)

 今から20年も昔、私は、厚生省年金局勤務であった。山口新一郎局長、
山口剛彦年金課長の下で、年金大改正の仕事に携わっていた。「年金の神様」
と言われた山口局長は、既に全身ががんに冒されていたが、必死の思いで
「世紀の大改正」に挑む姿は、鬼気迫るものと形容するしかないほどであっ
た。「這ってでも国会審議に出たい」という願いも空しく、改正法の成立を
見ずして帰らぬ人になってしまった。

 「年金の神様」の山口局長の厳しさは、部下から見れば「鬼の山口」であ
り、「仏の山口」と言われた山口剛彦年金課長のやさしさで、なんとか辻褄
が合っていた。当時、私のような山口組の手下たちは、大変な改正作業に関
わっているという心の高ぶりだけで、過酷な労働に耐えていたような気がす
る。

 「21世紀になっても、安定的な年金制度にするために」というのが、そ
の時の改正のスローガンであった。そのために、それまで改善、改善だけ
だった制度設計を変えて、これからもらう分の年金について、初めて給付切
下げの措置をとった。国民共通の基礎年金の導入、被用者の無職配偶者を第
3号被保険者として制度に取り込んだこと、障害福祉年金を基礎年金にする
ことによる大幅な額の引上げなど、画期的な改正内容である。

 それから、20年。公的年金の問題が、総選挙の一大論点になっている。
これからの年金制度のありかたは、日本の国のありようを左右するような、
極めて重大な争点である。年金受給者は飛躍的に増える。支給総額は莫大で
ある。国民生活へのインパクトは、とてつもなく大きい。日本経済へのイン
パクトも、同様に、ますます高まる。国民的課題になるのは、当然であり、
選挙の争点になるのも不可避である。

 国民の間に、「年金制度は崩壊するのではないか」、「自分たちは、年金
をもらえなくなる」といった恐怖感が広がっている。しかし、年金制度は、
もはや崩壊など決して許されないほどに、国民の間に定着している。年金制
度が崩壊する時は、この国が崩壊する時である。逆に言えば、この国が崩壊
しない限り、年金制度は崩壊することはあり得ない。

 「年金制度は、むずかしくて、一般の国民はとても理解できない」という
声もあるが、実は、極めて単純なものである。年金受給者は、それが保険料
であれ、税金であれ、現役世代が稼いだお金によって支えられている。支え
る側の生活水準が、年金受給者の生活水準よりも下回るようなことは、許さ
れるものではない。つまりは、支え合う世代間のバランスの問題である。こ
のバランスが取れるような制度設計にしておかなければ、どんな時代であろ
うと、制度が成り立つはずがない。年金財政が持つか持たないかということ
とは別に、世代間のバランス上、持つか持たないかである。支える側の現役
世代の納得と理解が得られないような制度は、決して存続できない。

 為政者は、この単純な理屈にのっとった制度改正を、自信を持って進める
べきである。あえて、「為政者」と書いた。まさに、年金制度のありようを
どうするかは、政治の問題ということである。事務当局が、ああでもない、
こうでもないと論議するレベルを超えている。誰にも満足できるような、都
合のいい解決方法はない。事務当局がやるべきことは、その事実を、為政者
の前に誤解の余地なく示すことであろう。

 総選挙を前にした各党のマニフェストを眺めても、自民党案ははっきりし
た方向性が示されていないうらみがある。民主党案のうち、基礎年金を、消
費税を原資とする税方式で賄うという部分については、「社会保険方式」こ
そ日本の年金制度になじむものであると信じ続けた私とすれば違和感がある。
それよりも、消費税をこういう形で年金とリンクさせることへの、理論的、
実際的な疑問に、私自身は答えられない。

 この場に、山口新一郎さんがいらしたら、どういうことをおっしゃるか。
私には、なんとなくわかる。答そのものではない。性根を据えてやれ、(少
なくとも)50年先を見据えて考えろ、世代間のバランスを中心に制度設計
を直せ、年金への信頼感の確保が何より大事。そんなこと、あたりまえのこ
とだ、言われずともわかっているという声もあろう。しかし、そうだろうか。
今こそ、このあたりまえのことに戻ることが、求められていると思う。それ
が、山口組の生き残りとしての私の言いたいことでもある。

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> [編集後記] <

 私は、国民年金滞納組の若者の一人です。制度自体の不安感と言うよりは、
不信感に近いものがあり、払っていませんでした。もちろん、払うための金
が無かったのが、一番の問題ですが。

 とはいえ、この夏から2年前の分から納めています。たまに余裕がある時
は二ヶ月分払っています。追いつくのはいつになるか分かりませんが、社会
を支える一人として、払っていこうと決めました。

 それでは、来週の「浅野史郎メールマガジン」をお楽しみに。 (一馬)

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発行:浅野史郎・夢ネットワーク メールマガジン編集局 渡辺一馬


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