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浅野史郎メールマガジン ━━━━━━━━━━━━━━━━━━2003/7/15
http://www.asanoshiro.org/                  第97号
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> <<目次>> <

 [週刊コラム・走りながら考えた]
  ○「イラク特措法案」(浅野史郎)

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 ○「イラク特措法案」(浅野史郎)

 イラクへの自衛隊派遣を可能にする「イラク復興支援特別措置法案」は、
現在、参議院で審議中であるが、今国会で成立する見通しである。地域経済
の回復をどう図っていくかといった、目の前の懸案が気になるあまりに、主
権国としての日本の国際貢献はどうあるべきかといった問題からは、ついつ
い目を離しがちである。一人の国民として、この問題を考えてみることも大
切なことであろう。

 法案に関する問題点は、いろいろあげられている。「非戦闘地域」への派
遣というが、戦闘地域との線引きはできるのか。派遣された自衛隊の任務は、
「人道復興支援活動」と「安全確保支援活動」であるが、具体的中身が見え
ない。大量破壊兵器処理への協力をしないのはなぜか。活動内容などを盛り
込んだ「基本計画」は、自衛隊派遣命令から20日以内に国会の事後承認を
求めるとされているが、事前承認が必要ではないか。こういった問題である。

 そういった問題もあるが、むしろこの時点で確認しておくべきことは、こ
の法案が必要とされる理由のほうである。いかなる目的で、さらに言えば、
誰のどういった期待に応えるためにこの法案が用意されたのかということで
ある。また、こういった法案成立の次に待ち構えているもの、つまりは、今
回の「特別措置」が既成事実となって、次の段階においてもたらされるもの
は何かという視点である。

 まず、誰の期待に応ずるものかと言えば、本来は、イラク国民の期待に応
えるというべきものなのだろうが、そういったことを信じている人はほとん
どいない。アメリカの期待、もっと明確に言えば、現在のブッシュ政権の期
待するところである。

 日米安保の枠組みの中で、日本としては、アメリカとの緊密な関係を確保
しておきたいという思惑がある。加えて、今回のイラク戦争では、アメリカ
の圧倒的ともいえる軍事能力の高さを見せつけられた。その事実の前に、日
本としてアメリカに対して言うべき言葉を失った状態とさえ言える。

 いずれにしても、国連を中心とした国際的な流れの中での判断でもなけれ
ば、ましてや、イラク国民の切実な願いを受けての行動とも言いにくい。主
権国家としての日本の、考えに考え抜いた国際戦略というわけでもない。こ
こに、危うさはないのだろうか。

 アメリカの軍事力の圧倒的優位性の前に、冷静な判断を失ってはならない。
イラク戦争の「戦後処理」を含めた行動に関して、アメリカ国内でさえ、
ブッシュ政権への懐疑的な世論動向が出始めている。寺島実郎・(財)日本
総合研究所理事長は、「現代のマッカーシズム」と呼ぶ状況にアメリカがあ
ることを指摘しつつ、アメリカのみを見ていることの危うさを論じている。

 イラク特措法案の抱えるもう一つの問題点は、自衛隊のありかた、日本の
「国際貢献」のありかたといったことが、この法案によって一定の方向にな
し崩し的に改変される恐れである。このことは、法案提出者自身が意図する
ところでないのはもちろん、ひょっとして意識すらしていないことかもしれ
ない。だからこそ、恐さが残る。

 この法案が提出された意図が、意識的に隠されていることからくる恐さで
ある。むしろ、明確に、今回の特別措置は、アメリカに協力するためのもの
であり、今後、自衛隊は同様の事態があったら、積極的に他国に乗り込んで
行くということを表明してしまうことのほうが、すっきりする。そのことで、
法案が成立しなくなるかどうかは、この際、別問題にすべきである。さもな
いと、誰も意図しないところで、既成事実だけが一人歩きするということに
なりかねない。

 法律の成立を前提にして言えば、実際に自衛隊はどういう行動をとったの
かということを、国民の前に正確に情報開示することの重要さを指摘したい。
当然のことながら、軍事上の秘密はある。国家間において、そのまま発表で
きない微妙な情報もある。情報を開示するタイミングとして、あまりにも生
々しい状況での開示はできないということも理解できる。そういったことを、
すべて、理解した上でのことであるが、今回の特別措置に関しては、最初の
例であるということにもかんがみ、意識して国民の前で説明責任を果すとい
うことをすべきであると考える。

 テレビで、イラクに派遣されることになりうる自衛隊員の家族がインタ
ビューされていた。「任務だから理解している」というコメントであった。
派遣自衛隊員である夫にもしものことがあった時、その妻は、夫は誰のため
に、何のために犠牲を払ったのかということを、自分の胸に言い聞かせられ
るであろうか。納得できる答は得られるだろうか。最低限、こういったこと
だけは押さえた上での特別措置でなければ、派遣される自衛隊員こそ気の毒
である。

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> [編集後記] <

 諸外国に対する配慮なのか、日本の安全保障問題は、国民には分かりにく
い言葉で進みます。今回も国民の「共感」を得られないまま、進んでいます。

 「他の国と同じこと」ではなく、「日本だからできること」をもっとよく
考えて、堂々と日本国内外に対してアピールすることが必要なのではないか
と思います。

 それでは、来週の「浅野史郎メールマガジン」をお楽しみに。 (一馬)

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発行:浅野史郎・夢ネットワーク メールマガジン編集局 渡辺一馬


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