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浅野史郎メールマガジン ━━━━━━━━━━━━━━━━━━2003/5/27
http://www.asanoshiro.org/                  第90号
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> <<目次>> <

 [週刊コラム・走りながら考えた]
  ○「鯨サミット」(浅野史郎)

 [お知らせ]
  ○田島良昭さんがラジオ出演します。
  ○メルマガ登録者、相互リンク募集中です。

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> [週刊コラム・走りながら考えた] <

 ○「鯨サミット」(浅野史郎)

 正式には、「地域社会と鯨に関する自治体サミット」と称するのだが、そ
の第2回が5月26日(月)、仙台市において開催された。昨年、山口県下
関市で、国際捕鯨委員会(IWC)総会が開催された機会に、私が提唱した
形で、第1回の鯨サミットが開催され、今回はそれに続いての第2回目である。

 昨年、私も下関市に出かけて、初めてIWCなるものに「参加」させても
らった。総会の冒頭のあたりをほんのちょっとのぞかせてもらった程度なの
で、参加というのもおこがましいのだが、そこで垣間見たのは、捕鯨容認国
と反捕鯨国との、国益を剥き出しにしたようなやりとりであった。話には聞
いていたが、ここまで対立するのかと、いささか鼻白む思いであった。

 そもそも、鯨を巡っては、科学的、非科学的な議論が交じり合って、いっ
こうに方向性が定まらない。「知能が高い鯨を食べるなんて野蛮だ」、「商
業捕鯨の復活は、鯨の乱獲につながり、海の生態系を乱す」といった主張も
聞かれる。食生活に関して野蛮かどうかを、外から決められたくない。海の
環境の保護ということなら、科学的調査に基づく、科学的判断がなされるべ
きで、直感だけでものを言って欲しくない。むしろ、鯨が沿岸の魚を大量に
捕食することによる水産資源の枯渇のほうが、生態系の問題としては大きい。
こういったような反論もあるはずである。

 こういった議論から抜けているのが、鯨によって成り立っている生活、文
化、伝統といったことであろう。鯨を捕ることでできあがっている地域生活
がある。そこには人間が住んでいる。だからこそ、捕鯨と切り離せない文化
や伝統も生きている。こういった側面を重要視し、地域に根ざした議論をし
ようというのが、まさに、自治体サミットのねらいである。

 大きな船団を組んで、大量の鯨を捕獲するというのが商業捕鯨のイメージ
だとすれば、それとは、ちょっと異なった捕鯨の形、つまり沿岸捕鯨にも目
を向けるべきである。宮城県の牡鹿町などは、沿岸捕鯨の基地として栄えて
きたところ。沿岸捕鯨も禁止されていることから、沿岸の漁業資源が大量に
鯨のえさとして捕食されている。この4月の牡鹿町沿岸域捕獲調査によって、
沿岸におけるミンク鯨の食生態や沿岸漁業への影響が明らかになりつつある。

 時間との勝負という面もあるだろう。鯨を解体する技術を持った人たちが、
年々高齢化で引退を余儀なくされている。このままでは、捕鯨は再開されて
も、解体の経験を持った人がいなくなってしまう。こういった、技術の伝承
だけでなく、鯨に関わる文化・伝統の伝承にも赤信号が点る。そのことは、
捕鯨によって成り立ってきた地域社会そのものの崩壊につながりかねない。

 現に、アメリカのアラスカ沿岸でのイヌイット(エスキモー)による捕鯨
は、「原住民生存捕鯨」として許されている。それが許されるのであれば、
牡鹿町の沿岸捕鯨も、一定の捕獲頭数制限の下に許可されてもいいはず。実
は、昨年の下関でのIWC総会で、アラスカやロシアの先住民による捕鯨枠
が否決されるという「事件」があった。そんな「事件」もひとつのきっかけ
になって、日本の沿岸捕鯨と原住民生存捕鯨とが、同じ性格のものと認識さ
れる可能性はあるかもしれない。

 こういった動きも考慮に入れていく必要がある。だからこそ、今回の自治
体サミットでは、地域生活に根ざした捕鯨のありかたを突き詰めていくこと
がとても大事であると考えた。一気に商業捕鯨の再開にまでもっていくのに
は、現実問題として壁が高過ぎる。沿岸捕鯨について、沿岸の水産資源が鯨
類による捕食によって脅かされているという調査結果を引用しながら、歴史・
伝統・文化に根ざした、地域での住民の生活実態を明らかにしつつ、その再
開を世界に訴えていく。つまり、国と国との関係での捕鯨論議の中に、地域
の問題意識も割って入ろうということである。

 そんなことで開催された第2回の自治体鯨サミット。二井開成山口県知事、
木村富士男牡鹿町長など10道県、10市9町の自治体代表が参加して、当 地において有意義に開催された。そこで採択された宣言文を持って、今回議 長を務めた私が、6月半ばに開催されるベルリンでのIWC総会にでかけて、 世界に向けてアピールをすることになっている。その成果については、ベル リンから戻ってから、このメルマガにて報告をさせていただくことにしたい。 ____________________________________________________________________ > [お知らせ] <  ○田島良昭さんがラジオ出演します。  田島良昭さんが5月26日(月)から29日(木)まで、NHKラジオ第一で夜11時20 分から始まる「ラジオ深夜便」に4日間連続で出演致します。  タイトルは「障害福祉にかける」です。田島さんの出演時間帯は11時50分 頃から12時の10分間です。  26日放送予定 ふつうの場所でふつうの暮らしを  27日放送予定 コロニー雲仙の挑戦  28日放送予定 25年間の試行錯誤  29日放送予定 これからの福祉 是非、お聞き下さい。   ○メルマガ登録者、相互リンク募集中です。  多くの皆様に浅野史郎の「生」の声を届けたいと思っております。  お近くにご紹介いただければ幸いです。  相互リンクも随時募集中です。お気軽にこちらまでメール下さい。  mmz@asanoshiro.org  リンクページはこちら  http://www.asanoshiro.org/link/index.htm ____________________________________________________________________ > [編集後記] <  東北地方で26日夕方起きた大きな地震は自分が経験した地震の中で一番大 きなものでした。正確には、78年6月の宮城県沖地震が一番なのでしょうが、 まだ乳児だったので、おぼえていません。  それほど大きな被害はありませんでしたが、このことを近い将来に予想さ れる次の宮城県沖地震の教訓にするべきでしょう。  それでは、来週の「浅野史郎メールマガジン」をお楽しみに。 (一馬)  皆さんのご意見、ご感想をお待ちしております。      メールアドレス mmz@asanoshiro.org ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 浅野史郎メールマガジン http://www.asanoshiro.org/ 発行:浅野史郎・夢ネットワーク メールマガジン編集局 渡辺一馬


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