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浅野史郎メールマガジン ━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2002/12/25
http://www.asanoshiro.org/                  第68号
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 [週刊コラム・走りながら考えた]
  ○「田中耕一さんのノーベル賞受賞」(浅野史郎)

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 ○「田中耕一さんのノーベル賞受賞」(浅野史郎)

 今更ノーベル賞の話ということで、ややタイミングを失していると思われ
るかもしれないが、そうでもない。「ノーベル賞に田中さんと小柴さん」と
いうのが、2002年の10大ニュースのトップに選ばれている。12月
18日には、私が京都市の島津製作所に赴いて、田中耕一さんに宮城県の県
民栄誉賞をお渡ししてきたばかりである。その意味では、時宜を得た話題と
言っていい。

 日本人として初めての二人同時受賞である。小柴昌俊さんのノーベル賞受
賞のニュースが1日早く伝わったが、その興奮は田中耕一さんの受賞の
ニュースで吹っ飛んでしまうほどであった。

 私を含めて、一般の人たちには、小柴さんの「宇宙ニュートリノ検出」と
田中さんの「たんぱく質のソフトレーザー脱離法による質量測定」のどちら
がすごい発見なのかなど全くわからない。田中耕一さんが、巷の話題をさらっ
たのは、43歳という若さ、博士号を持たないサラリーマン研究者、東北大
学出身として初めての受賞といったこともあることは間違いない。しかし、
なによりも、田中耕一さんの人間像が、ノーベル賞受賞者のイメージからほ
ど遠い、純朴なものであったことに起因すると言える。

 島津製作所の矢嶋英敏社長などからも聞いた話であるが、受賞発表当時、
田中耕一さんのことは、社長はもちろん、ほとんどの社員にとっては知られ
ていなかった。そんな社員がノーベル賞を受賞してしまうということは、我々
日本人がノーベル賞に抱いていた先入観を完全に吹き飛ばすのに十分である。

 いろいろなことを考えさせる今回の受賞である。矢嶋社長と一緒に食事を
したりして、親しくなったからのお世辞のようなものでは決してないのだが、
何よりも、島津製作所が素晴らしい会社であることを、強く印象づけられた。

 創業130年という長い歴史がある会社ではあるが、売上高2000億円
というのは中堅企業といったところである。創業時の精神が今でも変わって
いない。日本の進む道は科学技術立国であるとして、若い研究者を育てるこ
とに熱心である。社員3200人のうち、半数が技術者で、独創的な技術者
を多く抱えている。そういった中から、田中耕一さんが生まれたのは、決し
て偶然ではないことがわかる。

 会社として、目の前の業績だけに振り回されないことの大切さを教えてく
れる。企業理念を重視し、継続する強み。「島津のDNAが今回の受賞をもたら
した」といわれるゆえんである。

 そういった中で、少しだけ疑問で、残念なことは、田中耕一さんの素晴ら
しい業績が、今回のノーベル賞で初めて明らかになったということである。
つまりは、日本ではその業績が、学会的には認められていなかった。「目利
き」というものの大切さを、改めてつきつけられる。どうして、これだけの
研究成果が早くから注目され、評価されなかったのだろうか。島津製作所と
すれば、その成果を実用化して新製品を売り込んでいくということで十分で
あるから、島津製作所の問題ではなくて、外部評価の問題ということになる
のだろうか。

 それにしても、今回の田中さんの受賞は、多くの人に勇気を与えたことは
間違いない。若くてもやれる、博士号などなくても研究はできる、大学でな
くても、企業においても立派な研究成果はあげられる、技術のある会社はやっ
ていける、日本の科学技術はまだ捨てたものではない、などなど。特に、東
北大学関係者には、朗報である。研究者だけでなく、学生も含め、卒業生が
ノーベル賞を受賞したことの持つ意味は大きい。県民栄誉賞の授賞式で田中
さんが話していたが、仙台の町の雰囲気が自分を育ててくれた。まさに、東
北大学が仙台にあることの意義を、直接に示している。

 学生、研究者は、いやがうえにも張りきることだろう。田中さんは、東北
大学の客員教授として招かれたことを、とても大事なことと受け止めていらっ
しゃるようである。どうせやるなら、形だけのものではなく、共同研究のよ
うなものまでやりたいとのこと。我々にとっても、こんなうれしいことはな
い。

 心配は、田中耕一さんをマスコミ的にもみくちゃにしていること。いずれ
このフィーヴァーぶりは落ち着くのだろうが、ここまでのところは、明らか
にやり過ぎである。ストックホルムでの授賞式に一体どれだけの取材陣がで
かけたのか。そこで、ノーベル賞とは無縁の、つまらない質問を飽きもせず
にどれだけ発し続けたのか。「癒し系」とか言ってもてはやし、視聴率を稼
ぐ。尊敬の念、畏敬の念のない報道ぶりは、見ていて不快でしかない。

 県民栄誉賞を持って出かけて行ったのは誰かと言われそうだが、県民も一
緒になって受賞を喜んでいるという気持ちを、こういう形で示すことは、必
要なこととは思う。宮城県においでいただいて、ということになると、時間
的にも肉体的にもご負担をおかけすることになるので、今回はこちらから伺
うことにした。そのことは、田中さんも矢嶋社長も多として下さったものと
理解している。

 いずれにしても、あまりいいことがなかった2002年、田中耕一さん、
小柴昌俊さんのノーベル賞ダブル受賞で、日本中が大いに沸き立ったことは
うれしいことである。この流れを来年につなげていけたら、なおいいのだが。
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> [編集後記] <

 職業柄、テレビよりもインターネットでニュースを知ることが多いのです
が、田中耕一さんの取り上げ方は、いわゆる「芸能人」扱い。田中さんが、
年末は静かに過ごせることを祈ってしまいました。

 それでは、次号の「浅野史郎メールマガジン」をお楽しみに。 (一馬)

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発行:浅野史郎・夢ネットワーク メールマガジン編集局 渡辺一馬


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