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浅野史郎メールマガジン ━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2002/10/15
http://www.asanoshiro.org/                  第58号
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 [週刊コラム・走りながら考えた]
  ○「不良債権処理の加速と地方経済」(浅野史郎)

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 ○「不良債権処理の加速と地方経済」(浅野史郎)

 竹中平蔵経済財政担当大臣が、先ごろの小泉内閣「改造」で金融担当大臣
を兼務することになった。その人事が発表になったと同時に、株式市場は大
きく下降に転じた。さらに、竹中大臣による不良債権処理の特別チーム(金
融分野緊急対応戦略プロジェクトチーム)が発足したタイミングで、株価の
下げ方はさらに大幅に、そして急激になった。株価は一体どこまで下がるの
か、行き着く先がわからないほどの状況である。

 株式市場としては、竹中金融相の進める政策に、明確に「ノー」をつきつ
けている。少なくとも、大きな懸念を表明しているということである。当然
ながら、竹中氏を金融相に任命した小泉総理大臣の人事に対しての「ノー」
でもある。

 端的に言えば、不良債権処理の加速という政策に対して、相場は大きな懸
念を抱いている。不良債権の処理ということは、必要な施策であることは誰
しも認めるだろう。不良債権の処理が進まなければ、日本経済の再生のシナ
リオも描けない。どこかで通らなければならない関門である。問題は、タイ
ミングである。今が最適なのか。そして、そもそも、「不良債権」とされる
債権、つまりは、金融機関から見離されるべき企業の定義は何か、そこがあ
いまいなままであることに、大きな疑問を禁じえない。

 多くの専門家が指摘するように、不良債権は景気悪化の原因ではない。景
気悪化の結果として、企業業績が振るわず、企業の借金が不良債権化してい
る。もちろん、構造的に言って、市場から退場すべき企業があり、そういっ
た企業の借金が不良債権になっているということがあることは否定しない。
だからこそ、一口に「不良債権」と言っても、見極めが必要、目利きの存在
が求められる。

 原因ではなくて、結果であるということから言えば、不良債権処理が順調
に進んだからといって、景気回復には結びつかない。不良債権の処理の過程
で、むしろ、将来性のある、健全な企業の成長の芽を摘むことになってしま
うおそれが大である。実体経済を支えていくのは、そういった企業である。
そういった企業までつぶしてしまって、残るのは一体なんなのだろうか。

 欧米のように、直接金融のシステムが実質的にも機能している中での不良
債権処理ではない。銀行からの貸出しの栓を止められたら、他に頼れるとこ
ろがないというのが、多くの日本企業、特に、中小企業の実態である。そん
な状況で、杓子定規に不良債権処理と称する整理が行なわれたら、どうなる
か。

 地方経済にとっては、(闇雲な)不良債権の処理の加速がもたらすものは、
極めて深刻である。中小企業のみで成り立っているのが、地方経済である。
いずれの中小企業も、この景気後退の中で、順調に経営を進めているとは言
い難い。厳格な不良債権処理のマニュアルを適用されれば、「退場」の烙印
を押されるおそれのある企業が軒並みである。「闇雲な」というのをあえて
括弧書きにしたが、不良債権処理の加速という言葉を聞くと、「闇雲な」と
いう表現を連想してしまう。

 地方経済の観点からも、今急がれることは、本当の意味での構造改革であ
る。たとえば、構造改革特区で、企業活動や地域の発展の可能性、実験の契
機を抑えてしまっている各種の規制を取り払う。次の時代の日本経済の牽引
役となるべき先端産業への支援を積極的に行なう。産学官の連携の実を上げ
るための実効性のある政策も求められる。こういったことこそが、喫緊の課
題であって、少なくとも「闇雲な」不良債権の処理ではない。

 あえて、竹中大臣の政策の根っこにあるのではないかというものを、私な
りに推測してみる。これも、「闇雲な」に結びつくからである。市場原理へ
のあまりにもナイーブな信頼。ここでいう「ナイーブな」とは、「繊細な」
ではなく、「青臭い」という意味である。もう一つは、アメリカの意向に従
順なこと。アメリカが日本の不良債権処理を進めるべきと言っているから、
そのとおりにする。まさか、それほど単純なことではなかろうが、眺める
我々にはそのように見えるということはある。

 アメリカの意向に従順ということの裏として見るべきことが13日(日)の
各紙で報道されている。米大統領経済諮問委員会のハバード委員長が「竹中
支持」を鮮明にしていることが明らかにされた。ハバード委員長が、11日、
日本の報道機関を集めて、「米政府は竹中氏が優れた改革者だと信じ続けて
いる」と述べたという。竹中氏を支えることで、不良債権の最終処理と日本
経済の早期再生を改めて促す意向と解説されている。

 これは一体どうしたことだろう。記者会見は、ハバード委員長の求めで、
急遽ホワイトハウスで行なわれたのだそうだ。日本の内政問題に対して余計
なお世話である、不良債権処理の加速により日本経済に混乱をもたらすこと
が、アメリカの投資家の利益に叶う、全く善意から、米国の安全保障上の
パートナーである日本の経済再生を祈念しているなどなど、いろいろな見方
が示されている。どれが「真意」なのかはわからないが、「真意」を越えて、
週明けの日本の株式市場はどういった判断を下すだろうか。

 私とすれば、「余計なお世話」論に近い。一国の経済政策が、他国の高官
の発言によって信頼を取り戻すことが期待されるという図式それ自体、極め
て危ういものを感じる。信頼を取り戻すには、小泉首相自らの確固たる指導
力の発揮以外ない。それが我々には明確に見えない状況の下で、地方経済の
疲弊は静かに確実に進んでいくという事態だけは、どうしても避けなければ
ならない。

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 それでは、次号の「浅野史郎メールマガジン」をお楽しみに。 (一馬)

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