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浅野史郎メールマガジン ━━━━━━━━━━━━━━━━━━2002/10/8
http://www.asanoshiro.org/                  第57号
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 [週刊コラム・走りながら考えた]
  ○「原子力発電所の「トラブル隠し」」(浅野史郎)

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 ○「原子力発電所の「トラブル隠し」」(浅野史郎)

 東京電力の原子力発電所において、原子炉内のシュラウド(炉心隔壁)に
9件の損傷があったことが明らかになった。そのほかに、原子力発電所8基
で、再循環系配管に多数のひび割れの兆候があったのに、国に報告しないま
ま交換するなどしていた。このことが、電気事業法に基づく報告義務や技術
基準違反の疑いがあるとされた。

 これは、まことにもって大変な不祥事である。発電所の現場で、独善的な
判断を行なうことが習慣化していたし、社内の倫理規定が社員に理解されて
いなかった。原子力部門の社内検査も形骸化していた。これらの指摘は、
10月1日に発表された、経済産業省の原子力安全・保安院の調査中間報告
においてなされている。

 こういった報告をした国自体も、トラブルの発生を指摘する内部告発があっ
たのにもかかわらず、それを2年近くも結果的には放置していた。その責任
はどう考えるのかという、真剣な問い掛けがなされなければならない。

 東北電力は、9月20日、平成10年の検査時に、女川原子力発電所1号
機原子炉の再循環系配管で見つかった4か所11本の「傷の兆候」を国に報
告した。「4年間も隠していたのではないか」として、新聞報道によっては、
「トラブル隠し」の見出しが踊ったものもあった。東京電力での大掛かりな
トラブル隠し、資料の改竄、無断での修理など、大変な不祥事の発覚が背景
にある。そのことを糾弾する勢いが、他の事例にもそのまま向いてしまった
ということか。

 この件に関する私のコメントが、「東北電力をかばっている」と批判する
むきもあった。「今回の東北電力の報告遅れは、東京電力で行なわれたこと
と、同列に扱うようなひどい義務違反ではない」という思いが私にあったこ
とは事実である。それと、東北電力の行為(又は、不作為)の是非は、「こ
れからは、このようなものは報告されるべきだ」という将来のルールで判断
されるべきではなく、当時のルールというかシステムによって判断がなされ
るべきである。そのように、私は考えた。

 平成10年の東北電力の検査によって、原子炉の再循環系配管で傷の兆候
がみつかった。これを、すぐにも国や県に報告すべきであった。報告しなかっ
たのは、法定義務違反である。そのような案件として、扱うべきものだった
のかどうか、このことが一つの争点である。

 当時のスタンダードからすれば、報告すべきほどの「損傷」ではなかった
とするのが、東北電力の判断である。「専門家」と呼ばれる人が、「いや、
そんなことはない。あの程度の損傷なら、十分に危険である。当然報告すべ
きものであった」という発言をしているようであるが、ぎりぎり言っても、
これは水掛け論に近い。なぜならば、その当時、どの程度の損傷であれば報
告すべしという客観的なスタンダードがなかったからである。少なくとも、
東北電力においては、そのように認識されていなかった。

 「どんな損傷でも、細大もらさず、国に報告すべし」ということになって
いない、少なくとも、そのように電力会社側に認識させていなかったことは
確からしい。今回の東京電力の不祥事があって、報告すべき損傷のスタン
ダードが急激に下がり、「なんでも報告せよ」に近い状況になった。「状況」
を「雰囲気」に言い換えてもいい。

 これからのありようは、どうか。まずは、「維持基準」と呼ばれる、スタ
ンダードが必要であると強く感じる。傷があっても、安全を確認したうえで
監視しつつ運転を続ける基準のことである。9月15日に開催された日本原
子力学会の緊急討議の中でも、そういった指摘があった。原発についての日
本の技術基準が、「製造時の性能が維持されなければならない」としている
ことを、実現不可能な建前論とも批判している。

 維持基準の考え方はそのとおりとしても、これからの情報開示のあり方と
しては、私は、ほとんどどんな損傷、不具合でも、報告がなされたほうがい
いと思う。「報告」というよりも、むしろ、「公表」であろう。「こういっ
た現象が発見された。その原因はこういうことで、その現象が原子力発電所
の運行に持つ意味、つまり安全性の評価はこういうことである」という発表
を、時間をおかずに、わかりやすい表現方法で行なえば、県民はどんなにか
安心なことか。そして、そんな発表を通じて、原発の安全性についても正し
い知識を積み重ねていくことになるだろう。

 こういったことを県と東北電力との安全協定の文面で、しっかりと表現す
ることは有益である。今回の「事件」のもたらしたことを、前向きに受け止
めれば、こういった新しい情報公開のルールの確立につながるだろう。原子
力発電所の安全性は、電力会社、国、県といったところだけが意識していれ
ば、それでいいというものではない。県民も含めて、幅広く関心が持たれ、
正しい知識が共有されることが、極めて重要であると改めて感じる。

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 電子手帳から、A5サイズの紙の手帳にしました。時代に逆行かなと思いま
したが、全くの逆で、紙の手帳にしてからの一週間、生産性がとても上がり
ました。

 手帳が進化してきた時間と、電子手帳のそれとでは、雲泥の差ですものね。

 それでは、次号の「浅野史郎メールマガジン」をお楽しみに。 (一馬)

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