浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

ジョギング日記 2月第4&5週分          

2012.2.28(火)

長く厳しい冬  

 地球温暖化はどこへ行ったのだろう。今冬の寒さは長くて厳しい。月平均気温は全国的に3ヶ月続けて平年より低い。豪雪地帯での積雪も例年を大きく上回っている。梅の開花が一月近くも遅れていたり、早咲きの河津桜の開花もまだ。今日の寒さも厳しかったので、散歩は中止。この程度の寒さで中止していたら、散歩できる日がなくなってしまう。とはいえ、満を持して自粛。これも継続の秘訣ではある。

 「福島原発事故独立検証委員会」が報告書を発表した。労作である。官邸の混乱ぶりの描写が生々しい。報告書を読むと「あれが悪い、彼がだめだ、責任取れ」とか言いたくなるが、報告書の中心は何があったかの検証であって、誰かの責任追及が趣旨ではない。危機管理のシステムができていなかったこと、事前の訓練(危機対応マニュアルの説明を含む)が不十分であったことが重大な反省点であるべきだ。次に来る危機への対応が急務である。首都直下型大地震のような自然災害だけでなく、北朝鮮の暴発によるわが国への核攻撃なども「想定外」ではない。今回の原発事故の反省に立ち、官民挙げての危機対応に取り組むことになれば、検証委員会の苦労は報われる。


2012.2.27(月)

ATLの治療にまた一歩  

 近所の美容室で髪をカットしてもらう。3ヶ月ぶりである。ほとんど生えていない髪だが、長くなると見た目が悪い。こんな少ない髪のカットでも値段が同じなのが、ちょっと納得いかない。昨日の東京マラソンで「惨敗」した川内優輝選手がまる坊主になった。これを「毛じめ」という。彼の髪は、またすぐ生えてくるからいい。私の場合、生えてくるスピードが遅いのに、いらだつやら、不安になるやら。カットが終わって散歩に移行しようと思ったが、日差しに反して気温が低い、風もある。よって散歩はカット。

 東京大学医科学研究所の渡辺俊樹教授のチームがATLでがん細胞が増える仕組みの一部を解明し、米専門誌に発表したとの記事が、今朝の朝日新聞に出ていた。遺伝子の働きを調節する分子「マイクロRNA」のうち、miR31という種類に細胞のがん化を抑える働きがあることがわかった。これはATLの有効な治療法につながる可能性がある。実際に治療法として確立するまでは時間がかかるだろうが、ATL患者にとっては朗報である。このところ立て続けに、ATLの新薬や治療法のことが報じられている。「遅れてきた病気」ということもあるのだろう。ここに来て、世の中の関心が高まったということも関係しているのだろうか。ATLの治療に関しての医学薬学の進歩のスピードに目を見張る思いである。患者としては、もっともっと急いで欲しいというところではあるが、学者の方々のご努力には頭が下がる。


2012.2.26(日)

「累犯」障害者への支援  

 今日は東京マラソン。3年前に自分もこのコースを4時間15分余で完走した。その2ヵ月後にATL発症。あの時期に、あの身体状況で、よく完走できたものだ。銀座四丁目の角を曲がった時はなぜか晴れがましい思いがしたなあ。浅草雷門を通過する時には前のランナーの足元だけ見て走ってリズムを作っていたっけなあ。難所の佃大橋の上り坂は意外と楽だったなあ。などということを思い出しながら、テレビ中継に見入る。埼玉県庁職員の川内優輝選手の好走を期待していたのだが、2時間12分51秒で14位。市民ランナーでこのタイムは驚くほど高いレベルのなのだが、2時間7分台でロンドンオリンピック出場を確実なものにしようと臨んだ本人としては、不本意だったろうし、悔しかったことだろう。日本人トップの2位に藤原新選手が入った。2時間7分48秒は素晴らしいタイムである。フォームもピッチも乱れることない安定した走りは素晴らしい。オリンピック出場はほぼ確実だろう。

 朝日新聞に「知的障害者の聴取、改革中」の記事が載っていた。元衆議院議員の山本譲司さんが、自らの獄中体験から「累犯障害者」(新潮社)を書いて、刑務所内での障害者の処遇について鋭い問題提起を行った。それに共感した田島良昭さんの積極的な活動により、出所した知的障害者の自立支援の機関として、地域生活定着センターの全国的設置が実現した。出所しても働く場がなく、金銭的に困っていることもあり、何度も万引きなどの罪を繰り返す。逮捕されて取り調べを受けるときも、自分を守れない。検事の誘導に迎合して犯してもいない罪を認めてしまうこともある。知的障害者だからこそ特別な対応が必要である。今回の検察による取調べの改革は、こういった流れの一環だろう。取り調べの可視化、福祉関係者の立会いなどが試みられている。

 社会福祉法人「南高愛隣会」(田島良昭理事長)は「累犯」障害者の更生、支援活動に役立てるために「共生社会を創る愛の基金」を創設する。郵便不正事件がらみの違法捜査での逮捕後無罪を勝ち取った村木厚子さんが国からの賠償金を寄付することが話題になったが、その寄付先がこの基金である。累犯障害者の問題は、これまで無視されてきた。そこに光を当てたのが、障害福祉の仲間である田島さん、村木さんである。その活躍ぶりが頼もしい。知的障害者の犯罪と自立、無罪確定、検察改革、国家賠償、「再生」というのがキーワードである。ATL闘病からの再生ということで、私もなんらかの形で関わらせてもらいたいと思っている。


2012.2.25(土)

戦争責任  

 朝から雨模様。気温も低い。三寒四温、一雨ごとに春が近づく。当然ながら、散歩は中止。ラジオ体操はやればよかったのに、それもやらず。運動不足の一日。

 社会福祉法人「青い鳥」理事長の飯田進さんから送られてきた「魂鎮(たましずめ)への道」(岩波現代文庫)をやっと読み終えた。「やっと」というのは、内容が重く、読み進めるのがむずかしかったという意味である。飯田さんはニューギニア戦線での戦争犯罪を問われ、戦後現地での裁判でBC級戦犯として重労働20年の刑を受けた。のち巣鴨刑務所に送還され、1956年に仮釈放された。この本では、戦場での地獄の体験を語り、どういう状況の下で戦争犯罪を犯したのかを克明に記している。その体験からの問題提起として、戦後の日本が戦争責任に正面から向き合わなかったことが、現在の無責任体制につながったと断じている。自分の戦争犯罪を白日の下にさらすのと引き換えのような形で、戦争責任を告発している。

 飯田さんは現在89歳。ライフワークとなった障害福祉の仕事の現役である。戦争の愚かしさ、残酷さを身をもって体験した。その体験から得たものを次の世代に伝えていくことを自分の使命と思い定めての覚悟の一冊である。

 河村名古屋市長が、名古屋市と姉妹都市関係にある中国南京市の共産党幹部の名古屋市訪問の際に「南京虐殺はなかったのではないか」と発言したことに反発して、南京市当局は「名古屋市との交流停止」を決めた。中国人ツアーの名古屋訪問キャンセルも相次いだ。虐殺されたのが数十万人なのか数千人なのかは諸説紛々であるが、虐殺はまったくなかったというのも、信じられない。飯田さんの本の中にも、南京攻略作戦に従軍した日本軍陸軍少尉から「虐殺はあった」と直接聞いたことが紹介されている。いずれにしても、史実にあたって、真実を解明することが重要ではある。それが完全にできていない中での河村市長の「虐殺はなかったのではないか」の発言は、断定ではなく疑問の投げかけだとしても、いささか軽率ではなかっただろうか。


2012.2.24(金)

「一体」改革はまやかし  

 暖かい一日。横浜での最高気温14℃は3月下旬並み。散歩は薄いウインドブレーカーを着て13分+12分24秒。しばらくぶりで岸根公園までたどり着いた。

 午後から岩波書店の山本賢さんに自宅までおいでいただいて、5月刊行予定のブックレットの原稿チェック。事前にメールでのやりとりを重ねていたので、「これでいきましょう」となるまで、あまり時間がかからずたどり着いた。書名はまだ決まらないが、ここまで来ればなんとかなるだろう。

 野田内閣は、消費税増税法案と社会保障改革法案を切り離して、増税法案を先行して国会に提出する方針を固めた。野党からだけでなく、与党内からも反発の声があがるのは必至である。私とすれば、「それ見たことか」という感じである。来月号の「ガバナンス」に「一体というのが胡散臭い、眉唾だ、まやかしだ」と書いた。社会保障の財源にするといえば、消費税増税が国民に受け入れられるだろうという安易なシナリオは、財務省の入れ知恵なのかどうかはわからないが、なんとも姑息なやり口だ。正々堂々と(社会保障支出も含む)歳出を賄うために使う、財政再建のためには、ぜひとも必要なことなのだと説けばいいのに。情けないこと限りなし。  


2012.2.23(木)

病友と一緒の外来受診  

 2.23はふじさん、今日は富士山の日。いつ「制定」されたのだろう。築地のがんセンター外来に向かう高速道路が多摩川を渡るところで富士山を見るのを楽しみにしているのだが、今日は久しぶりの雨降りで富士山の姿は拝めなかった。その外来受診、光子が腹痛のため珍しく付き添いなし。胸のレントゲン所見、異常なし。血液検査結果はおおむね異常なし。腎機能のクレアチニンは1.2(正常上限1.1)とちょっとだけ高いのが改善していない。毎日2,000ccの水分摂取は実行しているので、他の要因なのだろう。それほど気にする数値ではないが、なんとかしたいものである。

 採血の待合のところで同病の南克己さんと会い、その後、田野崎先生の受診を待つ間、もずっと一緒。二人の「成績表」(検査結果のこと)を見ながらお互いの状況を比べる。クレアチニンの値は同じ、CRP(炎症反応数値)では私の成績のほうがいい。南さんは次回外来は1ヵ月後ということだから、2週間に一回受診の私より前に進んでいる。同じ時期に入院し、骨髄移植の時期も近い。退院時期もほぼ同じ。年齢も一緒。こういう仲間との情報交換は自分の状況を正しく把握する参考になる。  


2012.2.22(水)

パーキンソン病の治療に大きな一歩  

 昨日由紀さおりが海外で大人気ということを書いたが、由紀さん、安田祥子さん姉妹は私の友達だったことも書くべきだった。今も連載中の「新言語学序説」の第34回(「年金時代」2005年5月号)は「童謡について」である。(「ゆめらいん」からアクセスできます) そこでも紹介したが、二人の仙台公演の機会には、お酒を飲みながら童謡を何十曲も一緒に歌うという至福の時間を過ごしたこともある。公演を終えて宴会に合流するまでの間、姉妹は東北大学附属病院の緩和ケア病棟のベッドサイドで、童謡を何曲も歌い続ける。死期が近い患者さんは涙を浮かべて聴き入る。彼女たちの歌が心に響くわけは、こういう活動のことを知ればよくわかる。そういう由紀さんが海外で大人気であるのは、「友達」としてとてもうれしい。「一回会ったらお友達」という私流の定義による「お友達」ではあるのだが・・・。

 京都大学の高橋淳准教授らのチームが、パーキンソン病のサルの脳にヒトの胚性幹細胞(ES細胞)から作った神経細胞を移植して歩けるようにしたり、手足の震えを改善したりすることに世界で初めて成功したことが報じられている。医学の進歩にはめざましいものがある。まだまだ実験段階ではあるが、こういう経過を経て難病治療への道が開けることが期待される。ATLの治療薬ももうすぐ承認され、発売される。大変な病気を経験した患者として、こういった形での医学の進歩はうれしいことである。日本の学者が関わっていることが、さらにうれしい。がんばってもらいたい。  


2012.2.21(火)

光母子殺害事件の最高裁判決  

 山口県光市の母子殺害事件で、最高裁は、昨日、殺人や強姦(ごうかん)致死罪などに問われた元少年の上告を棄却した。この判決によって死刑が確定した。この判決が妥当かどうかとは別に、いろいろ考えさせられる。弁護団は高裁段階で、事実関係を争った。ドラエモンが出てきたりの荒唐無稽とも思えるストーリーは裁判官の心証を悪くしただけではなかったか。被告人の情状を前面に出しての弁護だったらどうだったろうか。あくまでも、可能性の話ではあるが、違った結果になった可能性はある。アメリカでは死刑廃止をしている州があるが、廃止の理由の一つが、金持ちは高い弁護士費用を払って優秀な弁護士を雇えるために、死刑になりそうな被告に死刑判決を免れさせることができる。金持ちかどうかで、死刑になったりならなかったりはおかしいというものである。また、最高裁判決では、4人の裁判官のうちの一人は多数意見に反対だったが、死刑判決での反対意見は異例である。それにしても、死刑判決の事実自体はとても重い。裁判員裁判では、裁判員が死刑かどうかの量刑まで判断することになる。この事件に裁判員が参加していたら、その判断をしなければならなかった。そもそも、裁判員に死刑も含む量刑判断までさせるのは、行き過ぎということを、今回の判決を見て、改めて言いたい。

 明るい話題も書く。今日のNHK「クローズアップ現代」では由紀さおりがアメリカ、イギリスで大人気の理由に迫っていた。これが面白い。日本語の良さ、それを歌に乗せる由紀さおりの才能、技術というのがクローズアップされた。歌謡曲の良さが、日本人以外の人たちにも理解されたということでもある。Pink Martini楽団のリーダー、トマス・ローダーデールが中古レコード屋でジャケットの由紀さおりの美しさに魅せられて買ったレコードを聴いたら、その素晴らしさに驚いたところからすべてが始まった。こういうエピソードも興味深い。妻と一緒に見ていて、「森進一の演歌も外国で受けるんじゃないかな」と洩らす私。  


2012.2.20(月)

消費税増税論議    

 朝食前にラジオ体操。ラジオ体操は団体でやるものである。学校時代は当然団体でやるし、仙台のサンデーマラソンクラブでは、準備体操としてメンバーそろってやっていた。一人でやるラジオ体操はなんだか調子が出ない。

 昼前に散歩12分+11分28秒。日差しが春めいてきた。風もなく穏やかな日である。そんな中を歩くのは、それだけで幸せ。ラジオ体操とちがって、散歩は一人でも様になる。

 消費税増税法案提出に与党内でも反対の声が上がっている。国民新党の亀井静香代表は「その前にやることがあるだろう」と言って反対。民主党内でも、小沢一郎氏、鳩山由紀夫元首相からも同じ論理で反対の声が発せられる。議員定数の削減、公務員の定数削減、給与削減、その他歳出削減が「その前にやること」として挙げられている。「そういうことをちゃんとやったら、消費税増税に賛成してやる」ということなのだろう。世論調査でも、国民の多くは、そういう意見らしい。「やることもやらないで、増税はないでしょ」というのは、俗耳に入りやすい。国民感情に訴える。しかし、感情論で切り捨てていいのか、政策の善し悪しの冷静な判断はどこかにいってしまった。

 政策判断として、たとえば、議員定数の大幅削減、公務員改革は消費税増税の前提条件なのだろうか。消費税増税とこれらの改革は、政策的にどう連動するのだろう。これらの改革が実現すれば、財政支出は減るのだから、消費税増税の幅は小さくしていいことになる。政策的には、むしろ、そっちの方向に連動する。こういう改革もやらないで、消費税増税をするのは「無責任」、「ご都合主義」「手前勝手だ」というのは、政策に向けられた批判ではなく、法律案提出の手順への批判であったり、政策(=法律)提案者の人格、行動様式への批判に聞こえる。議員定数の削減について言えば、「自分たちの権益は守っておいて、消費税増税で国民負担を増やすなんて、手前勝手過ぎる」という国民の声は大合唱に近いボリュームであるが、これも純粋な政策論とは別物である。

 政策(=法律)に賛成か反対かということは、純粋に政策論で議論すべきである。消費税増税は景気の足を引っ張る、低所得者に厳しい、所得税増税が先だ、増税しなくとも財政再建はできるという政策論としての反対論はあり得る。一方、今聞こえてくる消費税増税の反対論は、政党間でも国民の間でも、政策論議というより手続き論、感情論、政局観で展開されている。「やることをやらずに消費税増税法案を出すのはおかしい」というのは、政権のやり方への批判である。そう批判するのであれば、次回選挙で民主党を支持しなければいいだけの話であって、政策(=法律)に賛成反対とは別問題であることに気がつくべきだろう。  


2012.2.19(日)

おらほのラジオ体操    

 You Tubeで「おらほのラジオ体操」を見た。医療ガバナンス学会発行の「MRIC」で紹介されていたので、早速アクセス。NHKラジオ体操第一の伴奏に乗って、東北弁で号令をかける。画面に登場して体操をするのは、被災地石巻の人たち。その笑顔がいい。ヘルスコミュニケーションを本業とする「マッキャンヘルスケアワールドワイドジャパン」がCSR(企業の社会的責任)活動として作成したもの。これがかなりの評判らしい。「MRIC」の記事によると「おらほのラジオ体操」には新しい3つの役割が託されているとのこと。1) 震災という悲惨な出来事を風化させないこと、2) 温かいこころを通わせつづけること、3) 笑顔で元気に復興すること。なるほど、それに、このラジオ体操をきっかけに、運動の習慣を植え付けるというのもあるのではないか。そういえば、私のラジオ体操は三日坊主で中断している。明日から再開(予定)。  


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