浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

ジョギング日記 3月第4週分          

2011.3.26(土)

支援のための情報が求められている    

 日の光はたっぷり降り注いでいるが、風の強い日。その中を10分+10分のウオーキング。少しペースを上げると今まで使わなかった筋肉が働く感じ。歩いていて行き交う人たちは、ゆったりと動いている。平和の光景である。これがいつまでも続いて欲しい。

 朝のベッドの中で聴いていたラジオで大宅映子さんが言っていたが、大震災の被災を考えていて心が休まらないのは、まだINGの状態だから。INGとは、原発事故が復旧せず、これからも被害が広がるおそれがあり、災害は現在進行形だから。ゼロからの復興の段階ではなく、マイナス、それも増えつつあるマイナスからの復興である。まずは、ゼロポイントに戻したい。

 夕方、被災地でボランティアをしてきた青年が自宅にやってきた。彼のブログは、被災地の現状を生々しく伝えている。(http://ameblo.jp/watashimo-nw/) どの被災地が何に困っているか、ボランティアはどこに行けばいいのか、そういった情報が一元的に得られないことが、せっかく支援したいボランティアにとって、大きな障害になっている。必要な支援を受けられない被災者にとっても、切実な問題である。こういった情報が行き交う掲示板のようなものをネット上に展開できれば、事態は改善される。いかに的確な、リアルタイムの情報を集められるかがポイントである。そんなことを、手探りの中から実感として感じ取り、私に助力を求めてきた。私にできることは、あまりない。とりあえず、この辺に詳しい人材に、教示を得るべく連絡するぐらいである。それにしても、まったく面識のない青年二人が、突然訪ねてきて、こんな話をする。「見も知らない若輩者に貴重な時間を割いてくださったことに感謝します」というメールがすぐに届いたが、感謝するのは、こちらのほうである。


2011.3.25(金)

みんな苦労している    

 気温が高いうちにと、昼食後、すぐに散歩へ。今日の歩きは、少しだけペースを上げて、私がウオーキングと呼ぶようなものだった。10分+10分は変わらないが、昨日より50メートルほど先まで行った。そぞろ歩きから始めて、散歩へ。その次が、今日のウオーキング、そしてエクサイズ・ウオーキング、ジョギング、ランニングと進む。呼び名は、私の勝手な命名である。ジョギングにたどり着くまでに、あと2ヶ月はかかるだろう。

 こんなことを書いているのが気が引けるほど、原発事故の状況は悪化の一途である。3号機から放射線漏れが確認され、原子炉のどこかが破損しているか、冷却水を通す配管が損傷していることが推測される。1号機、2号機からも放射線漏れがある。冷却装置を動かすための通電は、いまだできていない。作業も、中止・中断の合間に行われているのでは、復旧は進展しない。状況を眺めるしかない我々としては、気ばかりあせる。現場では、みんな必死で努力しているのだが、もうひとふんばり、がんばってもらいたい。みんな苦労している。我々は祈っている。

 農産物や水道水の放射能汚染について、政府は、出荷停止をしたり、乳児に水道水を飲ますなと言ったりしているそばから、「この程度は、健康上問題ありません」と説明している。その際に、一年間食べ続けて、CT一回の被爆程度だから安心していいと強調する。何度も引用される「CTによる被曝」だが、私は一年に数回CT検査を受けている。そんな私からすると、「CT撮影一回と同程度」という言い方は、何となくすっきりしない。CT撮影は、そんなに危険なのかと「曲解」してしまう。

 福島県の佐藤雄平知事から電話があった。彼は、厚生省の同期扱いの仲間である。「同期扱い」というのは、昭和58年ごろ、渡部恒三厚生大臣の政務秘書官が佐藤雄平さん、事務秘書官が私と同期入省の真野章君ということがあり、佐藤さんが我々同期と同じ年齢だったことからである。同期会の出席率は、佐藤さんが一番高かった。その佐藤雄平知事が、災害対応に大変な苦労をしている。巨大地震・大津波被害への対応だけでなく、今は、原発事故への対応に追われている。電話口の声は元気一杯で、一応安心したが、心身の疲労は限界に達しているだろう。頑張って欲しい。


2011.3.24(木)

統一地方選挙の告示    

 日が長くなった。夕方の暮れ方が遅くなったのを実感する。春分の日を過ぎたのだから、これからは、昼の時間のほうが長くなる。今日はまだ寒さが残るが、真冬の寒さとはまったく違う。散歩には、これぐらいの気温のほうが気持ちいい。そんな中、10分+10分の散歩を確実にこなす。なんだか義務ベースのように聞こえるが、義務と権利両方である。

 原発事故については、今日は、いい知らせは何もなかった。農産物の出荷停止で、農家の方の嘆きの声が胸に重く響く。東京都、千葉県の水道水の放射能汚染で乳幼児は水道の水を飲まないようにというお達し。そのお達しを聞いて、住民はペットボトルの水の確保に走り回る。そして、3号機での作業員の被爆。これで、今日の作業は中止された。復旧作業がどんどん遅れる。遅れている間に、事態は決して改善しない。悪化するばかりである。

 そんな中で、統一地方選挙の告示である。12都道県で知事選挙が行われる。こんな時期に選挙なんてという声もあるが、被災地以外のところでは、やれる状況なのだから、きっちりやるべきである。公約の第一に防災をあげる候補者がほとんどなど、やはり、いつもの選挙とは違う。選挙運動も、抑え気味でやるらしい。私のところでは、神奈川県知事選挙、神奈川県議会議員選挙、横浜市議会議員選挙がある。この時期だからこそ、関心を持っていきたい。  


2011.3.23(水)

新学期、1ヶ月遅れる    

 今日も、雨模様の寒い一日だった。被災地の寒さは、こんなものではない。暖かい室内にいながらの身で、被災地の皆さんに思いをいたし、申し訳なさも感じる。もうすぐ暖かさがやってくる。それまで、何とかしのいで欲しいと心から念じている。

 慶応大学SFCからのメール案内で、来学期の開講を1ヶ月遅らせて、5月6日とすることを知らされた。震災後の被災地で社会貢献活動をしている教職員・学生のことを考慮しての措置である。安全確保、電力確保、交通事情にも配慮してのもの。4月復帰を頭においていた私とすれば、出鼻をくじかれたような気もするが、もっとリハビリに励めというメッセージと受け止めることとする。

 大学復帰後の講義の準備を始めていたが、今回の震災を受けて、内容が変わらざるを得ない。「政策協働論」で問う論点として、政治主導、国会のあり方、マニフェスト、財政再建などがあるが、これらの中身が3.11以後は新しい角度から論じなければならなくなった。「『3.11以後』は、すべてが変わる」と、この日記でも書いた覚えがあるが、これもそのひとつである。  


2011.3.22(火)

今日も一喜一憂    

 原発事故については、気が安まらないので、ニュースは見ないようにしている。といいながら、やはり見てしまう。原発への電源供給が復活する見込みというのは、いいニュースであるが、冷却系統を動かすためには、損傷部分の部品交換などが必要になる。その部品が届いていない。内部の損傷がひどくて、電気を流しても、システムが動かないのではないかとの懸念もある。そんなことを考えつつ、一喜一憂している。祈るような気持ちで、すべてうまくいくように見守っている。原発敷地内のがれき撤去作業を行った建設会社の作業員が「危険は感じていたが、国民のためにやりました」と語っていた。えらい、立派だと言うしかないが、こういった人たちの献身的努力に、深く深く感謝する。ありがとうございます。

 甲子園の高校野球選抜大会は、明日、予定通り始まる。東北代表の宮城県の東北高校も出場する。被災地の代表として、練習不足など相当のハンデを背負っているが、出るからにはがんばって欲しい。スポーツで言えば、大相撲。三月場所が八百長騒ぎで中止になっていなければ、3月13日が初日となる。中止すべきか、続行すべきか、大議論になったかもしれない。皮肉にも、そんな騒動が未然に回避できたのは、怪我の功名といっていいのだろうか。  


2011.3.21(月)

老いてはいられない    

 顔のいろいろなところに、吹き出物のようなものが出ては消え、消えては出てくる。鼻の上のほうのできものが、しつこく長く消えない。メガネが当たるところなので、できものを悪化させているのかもしれない。ということで、この2,3日、メガネをかけないで生活している。だから、目がよく見えない。耳は、放射線治療の副作用で、鼓膜に耳垢が張り付いていて、聴こえが悪い。筋肉が弱って、足もふらつく。頭は、髪がまばら。これでは、まるで老人だなあと、年齢的には老人そのものである身が嘆く。目は、メガネをかければ普通に見えるし、放射線照射の影響が時間とともに薄れれば、耳の聴こえも回復する。筋肉だって、散歩を続ければ戻ってくるし、頭髪だって、いずれ戻るはず。頭髪は、放射線の影響ではなく、老化現象だという友人もいるが、それは違う、違うと思いたい。

 老いは、いずれ、やってくるが、こんな国難の時期、まだまだ老いさらばえてはいられない。巨大地震・大津波のことを言っている。まだまだ、我々の年代としても、やれることはある。その使命感が、老いをどこかへ追いやってくれるだろう。使命感といえば、ほんものの使命感、文字通り、命をかけた戦いを遂行している部隊がある。それが東京消防庁のハイパーレスキュー隊である。放水作業で、現場の放射線量を計測しつつ、隊員に指示を出していた隊長の覚悟の言葉が「子どもたちのために、ここはぜひともやらなければならないと思った」というものだった。昨日も書いたが、彼らの奮闘努力には頭が下がる。

 石巻で9日ぶりに救助された阿部任さん(16)のインタビューをテレビで見た。発見時には、体温28℃という低体温症だったが、それも回復して、比較的元気に応対していた。昨日も書いたが、精神力の強さに感銘を受ける。お父さんも、「あまり話さない子だけど、強いところはあるのだなと感心した」と言っていた。助かったこともうれしいだろうが、これだけの強さを持っている子であることに誇りも感じたことだろう。


2011.3.20(日)

すごい人たちがいる    

 曇り空ながら、風もなく、気温が高い。そんな春の気配の中で、散歩10分+10分。散歩しながら見える景色は、平和そのもの。三歳ぐらいの女の子の手を引いた父親とすれ違う。なんと愛らしい姿だろう。この子が大人になった時の日本は、平和で安全で住みよいところになっていて欲しい、唐突にそんな思いが浮かんでくる。

 原発事故への対応で、通電が可能になったことや、放水が一定の効果をあげていることには安堵するが、「3号機の圧力が上昇」というニュースには、不安が募る。同時多発事故で、もぐらたたきのように対処していっている。一喜一憂、やはりこれでは、血圧が上がる。そんなニュースの中で、心から感動したのは、消防庁から現地に派遣された隊員の記者会見である。家族に宛てて、「これから現場に行ってくる」というメールを送ったら、「あなたは、日本の救世主になれ」と奥様から返信があったという。本人の覚悟と献身には、頭を垂れ、手を合わすしかない。奥様も、どれだけ、心配したことか。その奥様からのこの言葉、日本人みんなを感動させる。

 巨大地震・大津波被害への寄付が、有名人からされている。ユニクロの柳井正社長、楽天の三木谷浩史社長が10億円、久米宏さんが2億円、イチロー選手が1億円、松井秀喜選手が5千万円、ダルビッシュ投手が5千万円など、巨額の寄付に驚き、感動する。なかなかできないことである。この人たちは、すごい。

 宮城県石巻市門脇町で、捜索活動中の県警石巻署員が、倒壊した民家のがれきから男女2人を発見したというニュースには、うれしい驚きである。救出されたのは、阿部寿美さん(80)と任さん(16)。こんなことって、あるのだろうか。被災からの長い期間を、一体、どうやって過ごしたのだろう。精神力も大したものである。すごい、すごい人たちである。


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