浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

ジョギング日記 10月第4週分          

2010.10.23(土)

 毎日が日曜日という生活をしている。しかも、どこへも出かけずに、家族以外の人と会う機会もほとんどないという日常である。ふつうであれば、嫌気がさすし、気ぶっせいになるような生活ではないだろうか。私の場合には、こういった期間は、無駄で無為なものではないという気持ちでいる。厄介な病気であるATLの完治までの、大事な期間であり、骨髄移植から1年経過といったところまで無事に過ごせば、病気との戦いに勝利ということになるはず、そう思いつつの一日、一日と思っている。

 改めて思うのは、この期間が、人生の中の紛れもない幸せの瞬間だということである。家族とみっちり一緒にいられることを言っている。次女もいずれこの家を出て行く。おばあちゃんも、いつまでも元気ではいられないだろう。そうなる前のこのひとときを、幸いにも家に居っぱなしの自分が楽しんでいる。神様から与えられた休暇、そんなふうにも考えている。

 家の中を移動するときにも、足の筋肉が衰えていることを感じる。もうすぐリハビリとしての散歩を再開しなければならない。手を首の下に回して、起き上がる腹筋運動が、一回もできなくなっているのに愕然とした。昨日から、朝、昼、晩と腹筋運動の真似事のようなことを始めた。筋力がある程度つかないと、体調管理に支障をきたすことを懸念している。  


2010.10.22(金)

 今朝も、2時半には目覚めてしまった。NHKラジオのラジオ深夜便では「日本の歌、心の歌」をやっている時間。越路吹雪特集で、彼女の素晴らしい歌を4曲聴いて、また浅い眠りへ。5時過ぎには完全に目覚めて、TBSラジオ「生島ヒロシのおはよう一直線」を聴いていた。入院中に生島さんから電話をもらったが、「ラジオの電波が届かないので、番組聴けないんだよ」と言う話をした。今朝は、聴くのは一ヶ月ぶりであるが、生島さんは相変わらずの乗りの良さであった。今日のゲストは、わが友寺島実郎さん。エネルギー問題について、相変わらずの明晰なわかりやすい解説をしていた。

 昨日書くのを忘れたが、昨日の朝日新聞朝刊37面の「もっと知りたい」の欄で「母乳でうつる白血病ウイルス」というタイトルで、HTLV-1ウイルスについての記事が紹介されていた。書いたのは、武田耕太さん、宮島祐美さん。私もウイルス由来でATLを発病したことも紹介されている。HTLV-1の抗体検査が公費で実施されることなど、国のこの病気に対する対策が打ち出されたことも、記事のきっかけになったのだろう。まだまだ知る人の少ない病気について、こういう形で情報が伝わっていくことはとても大事なことである。  


2010.10.21(木)

 今日、国立がん研究センター中央病院を退院して、一ヶ月と4日ぶりに自宅に帰ってきた。やはり自宅はいい。一人きりでの食事でなく、家族と一緒というのは、楽しいものである。大きなテレビ画面で中日対巨人戦を見られるし、ゆったりと湯船に身を預けることもできる。困ったことは、入院中に階段を使うということがなかったこともあり、自宅では二階にあがる階段を昇るのに、筋肉が衰えていて、手すりを使いながらでないと心もとないという状況である。1週間もすれば、しっかりしてくると思うのだが。早速散歩を再開しようと思ったが、雨模様で中止。まあ、退院当日ぐらいは、おとなしくしていたほうがいいということもある。入院した9月半ばは猛暑の最中であったが、今日は寒いぐらいの陽気である。季節はかくも早くめぐる。  


2010.10.20(水)

 昨夜のパリーグ、クライマックス・シリーズのファイナル・ステージの最終戦で、ロッテがソフトバンクを7対0で破って、日本シリーズに進出した。レギュラーシーズン3位からの日本シリーズ進出は初めてとか。「そういうのもあり」というのがルールなのだから、ここは短期決戦にきっちりと結果を出したロッテを褒めるべきだろう。この短期決戦では、ロッテの投手陣が良かった。特に、昨日完封した成瀬は付け入る隙のない素晴らしい内容だった。日記は夕方までに書いてしまうので、夜の出来事は翌日回しになる。

 治療状態も順調に進んでいるし、ステロイド剤の量も一日20mgレベルまで減らせる状況になったので、明日退院の予定である。1ヶ月ちょっとの入院。退院して、また入院ということになったらいやだな、これが最後の入院にして欲しいなとは思う。入院生活がいやなのではない。今回も、ゆったりとした入院生活で、費用の心配を別にすれば、快適に過ごすことができた。入院を必要とする状態になることがいやだなということである。退院後も気を引き締めて、自宅療養に努めなければならない。

 今回の入院では、40冊ほどの本を読んだが、ベストは「猫を抱いて象と泳ぐ」小川洋子著(文藝春秋)。寓話のような話の運び、いつもの小川洋子ワールドに心地よく誘われる。この本は、志村健一さんが自宅に送ってくださったもの。丁度2年前、志村さんとは、紋別市で開催されたスペシャルオリンピックス日本・北海道の10周年記念式典でご一緒した。翌朝、志村さんとはオホーツク海を眺めながらのジョギングを、地元アスリートも一緒になって楽しんだ。妻からは、「寒いからジョギングはだめよ」と言われていたが、寒くなかったので、その注意に反して走ったのだが、そのときの「オホーツク海を見ながら、うそーつくかい」なんてことを言いながらだったのを思い出す。


2010.10.19(火)

 このところ、夜中におなかが痛くなるということがあった。胃のあたりで、どうも胃酸が出過ぎているのではないかと感じる痛みである。田野崎医師に言ったら、早速に、胃酸の出過ぎを抑えるファチモチジンD錠を処方していただいた。おかげで、昨夜はまったく兆候なし。入院治療には、こういった即対応という利点があることを実感した。この胃酸過多も、いろいろな薬を服用していることからくるのだろう。免疫が弱くなっている状態に対応して、予防的に使っている抗ウイルス剤、抗細菌剤、抗カビ剤を中心に、一日21錠も薬剤を服用しているのだから、いろいろ副作用が出るのは避けられない。

 退院を前にして、現在の肺の状況を把握するために、胸のCTを撮った。「文藝春秋」11月号で、近藤誠慶応大学講師が書いた「CT検査でがんになる」という「衝撃レポート」を読んだ。CTはX線撮影の100倍以上の被ばく線量であることが、その論拠である。私は、今回の病気に関して、何回となくCT検査を受けているので、このレポートに無関心ではいられない。しかし、必要な検査は受けなければならないのだから、こういったことも念頭において、何でもかんでもCT検査をするのはよくないという警告としては承っておくというしかないのではないか。それにしても、医療の世界では、いろいろな説があるのだなと改めて思う。

 仙谷由人官房長官の存在が目立っている。政策決定でも、国会答弁でも、菅総理大臣より仙谷官房長官のほうが存在感ありとして、国会審議で野党からは「仙谷内閣」と揶揄するような質問があり、仙谷長官は「おちょくられている」と記者会見で話していた。前任の官房長官は、逆に、存在感が薄かった。官邸での各省の政策調整でも、力を発揮したとは言い難かった。身体を張って首相を守るという気概も見えなかった。仙谷長官は、対照的に、見事に官房長官としての役割を果たしている。民主党政権発足後すぐの頃、行政刷新担当大臣として多忙な中の日曜日に、入院中の私を見舞いに訪れてくれた。仙谷さん自身も、2002年1月に、ここがんセンターで胃がんのため、胃の摘出手術を受け、1ヶ月以上の入院生活を送った。ある意味、同病の士であるし、個人的にも親しみを感じている仙谷さんであるが、そんなひいき目ではなくて、よくやっていると思う。胃の摘出で、食事が少量ずつ、ゆっくりしかできない身体である。無理が出なければと心配しつつ、活躍を見守っている。


2010.10.18(月)

 週明けで、土日なかった採血がある。検査結果が出ないと、治療の状況がわからないので、採血があったほうがいい。その成績は、大きな変化なしというところ。肝機能の数値が正常値を超えているが、服薬の副作用ということで、これは仕方がない。

 もうすぐ退院という時期を迎えているが、退院後の自宅療養も、入院中と同じように、慎重な対応が必要である。妻をはじめ、家族の協力も必要となる。せっかくここまできたのだから、慎重に、慎重にという妻の言葉が重い。

 夜は、パリーグのクライマックス・ステージをずっとテレビで見ている。今日はファイナル・ステージ、ソフトバンク対ロッテ戦であるが、気持ちとしては、ソフトバンクを応援している。そもそも、クライマックス・シリーズというのがちょっと変。140試合を超えるレギュラーシーズンで優勝したチームが、そのまま日本シリーズに出られるのではなく、「ちょっと待て、もう一回2位、3位チームに勝ったら、日本シリーズに出してやる」と言われているようなものである。やっと3位になったチームでも、短期決戦でたまたま勝てば日本シリーズに進出する。少し理不尽さを感じるので、ここは「正義」を貫くためにも、ソフトバンクに勝って欲しい。昨年は、2位だった楽天に日本シリーズに行って欲しいと思って応援したが、これはまた別な論理である。


2010.10.17(日)

 今日で入院1ヶ月である。鏡に映るわが頭髪の状態を見ると、どうだろう、発病前の20分の1ぐらいの髪の毛の量だろうか。私と同年代なら、この程度のはげ具合の人はたくさんいる。私の場合は、これからさらに生えてくると思いながら鏡を見ているのだが、ふつうは、これからどれだけ抜けていくのだろうかと恐れつつ鏡を見ているはず。私にとっては、希望が持てるのだが、期待したほどには再発毛のスピードが上がらない。今日から、ステロイド剤が5mg減って、一日20mgになった。

 知事時代の秘書の大井川恵子さんが、本を持って、来てくれた。「96歳の詩人」ということで、テレビで紹介されたのを見て、読みたいと思っていた「くじけないで」柴田トヨ著(飛鳥新社)など。大井川さんは結婚して、今は川崎市に住んでいる。お子さんが二人とか。元気なところを見て、安心したと言って帰っていった。


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