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不出馬表明その後

2005.8.30

 8月22日に、来る10月の宮城県知事選挙に出馬しないことを正式に表明した。その日の記者会見でも、さまざまな質問が発せられたし、新聞紙上では、関係者のコメントが発表され、ひとつひとつ感慨深く読ませていただいた。たまたま、翌23日には、「東北6県知事サミット」が開催されたが、その場でも何人かの知事から、いろいろな感想が漏らされた。「こういうディスカッションでも、ご一緒できなくなると思うと寂しい」などというコメントを漏らす知事もいたので、「私は、別に死ぬわけではないのですが・・・」と応じたものである。

 こういった反応とは別に、私宛に電子メールやら、お手紙が多数届いた。昔の仲間は、福祉の領域の方が多いのだが、県外メンバーになると、「少し残念」とは言いながら、「よかった」というのが目立つ。たとえば、神奈川県のOさんは「公約どおりですから、うれしく思います。継続し続けたらキリがない! 常に必要とされるのですから、それを言ったら長期政権になりますから。辞めてからのほうが期待大です。今のような社会状況の中において、一層ダイナミックな仕事を期待します。ご苦労様でした。残された時間にこそ、この12年間が集約されるのでしょう。最後の一分一秒まで、知事として楽しんでください」とのコメント。少し長く引用してしまったが、私としては一番勇気づけられるものであった。

 同じく神奈川県のHさんのコメント。「昨日から少し寂しい気持ちでいます。『お疲れ様でした』は、任期満了時に申し上げるとして、今はどんなお気持ちなのでしょう。・・・『福祉は国づくり』、役目は、仕事はまだまだ続きますね」というもの。中略した部分には、「同志」、「仲間」という言葉が含まれていた。

 県内の若い方からも。「見事な不出馬宣言でした。情報公開でも、クリーン選挙でも、有言実行という意味では小泉首相も足元に及ばない鮮やかさでやってのけた浅野さんですが、まさか、自らの多選批判まで実践するとは思いませんでした。・・・もしかしたら、浅野さんも、凡百の首長と同じく、権力の魔力に取り付かれたのではないかと心配していましたが、杞憂でした。・・・知事という束縛から自由になり、『アサノ』という印籠を持った黄門さまとして、福祉という名のホームグランドで一層の活躍をなされることを心から願ってやみません」というコメントの主は、12年前の初当選の選挙の時は学生だったとのこと。こういうコメントだけ引用していると、自慢話のようにも聞こえてしまうので、この辺でやめる。

  不出馬宣言をした直後には、「理由がわからない、財政危機や竹ノ内産廃処分場問題に嫌気がさしてやめるのか」といったような疑問も出されたが、少し距離を置いて見ている方々には、私の想いが実物大でわかっていただいたような気がしている。「距離を置いて」というのは、文字通り、県外に身を置いているということもさしている。

 財政危機がなかったら、竹の内処分場問題が完全解決していたら、四選出馬するのかということになれば、それは逆である。そういったことなら、後顧の憂いなくというか、完全燃焼の満足感とともに知事の座を去ることができるとは思う。しかし、目前の難問に恐れをなし、嫌気を感じて、それが理由で知事を辞めるのかと見られるのは、まったくもって本意ではない。12年間知事をやっていて、仕事に嫌気がさしたとか、つらい、辞めたいと思ったことは、一度もない。今もそうである。心身ともに元気いっぱいであるし、「楽しんで」というとお叱りを受けそうであるが、実感としては楽しみながら知事業を務めている。これから10年も20年も務め上げるとしても、それは変わらないだろうと思う。

 記者会見でも申し上げたが、12年前に、宮城県知事を5期20年務めた山本壮一郎さんのところにご挨拶に伺った時の言葉が、とても印象深かった。「浅野くん、知事はなるのも大変だが、辞めるのはもっと大変だ。自分は3期で辞めようと思ったが辞めさせてもらえなかった。結局5期20年もやってしまった。とても恥ずかしい」という先輩の言葉は、知事になって3日目の私には、奇異にも聞こえた。「当選おめでとう。知事としての心得は・・・」という言葉を期待していたから、なおのことである。だからこそ、それ以来、私の頭の中に確実にインプットされてしまったのである。

 知事業は卒業しても、職業生活から引退する気はない。「扶養家族もいるし・・・」と冗談のように言っているが、本音である。元気で職業生活を送れるのは、せいぜい10年であろうと思っている。だったら、意味のある、やりがいのある、そして、何よりも楽しい仕事を目一杯やろうと思っている。「新たな挑戦」という言葉も浮かんでくる。とはいえ、知事の任期が3ヶ月近く残っている。先のことを考えるのは、しばしお預けでいかなければならない。11月20日の任期切れのその日まで、全力を尽くしたい。



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