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シローの走り書き

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「ふゆみずたんぼ」は面白い

2005.5.17 

 「ふゆみずたんぼ」は「冬・水・田んぼ」と書く。冬期湛水水田というのが正式名称に近いのだろうが、これでは情緒が失われる。ゆかしさがない。

 「面白い」というタイトルにしたが、科学的評価とか、法律的問題点とか、既存農法との比較とか、そういったことは横に置いといてという趣旨ではある。まずは、面白がるところから、何事も始まる。良ければやる、悪いところは直してみる。

 ともあれ、「ふゆみずたんぼ」は面白いのである。「日本雁を保護する会」の会長である呉地正行さんとNPOふゆみずたんぼ代表の県立田尻高校教諭岩渕成紀さんから話を聞いたのが、私の「ふゆみずたんぼ」との最初の出会いであった。文字通り、冬の期間中に田んぼに水を張りっぱなしにするというだけのことであるが、それが数々のマジックを生むという。

 稲刈り後のわらをそのままにして、そのわらが隠れるぐらいに田んぼに水を張っておく。水鳥の食べる落穂を残すために、田んぼは耕さないまま残す。水鳥の糞は良質の肥料になる。その水の下になる土の中で、イトミミズが増える。このイトミミズの糞が土にまざって、トロトロ状態の栄養たっぷりの土壌になる。このトロトロ層の土壌の下にある雑草の種は発芽できないで死滅する。これがイトミミズの抑草効果と呼ばれる現象である。

 岩渕さんの説明によると、田植えをした後もイトミミズは増え続け、結果として肥料なしで稲は成育するとのこと。雑草が生えないので、農薬も不要である。農薬を使わないこともあってか、田んぼにめだかが帰って来た。水があるので、カエルが産卵できる。クモも増えて、稲の害虫を食べてくれる。カエルも同じである。その他、いろいろな生物がどんどん増えてくる。岩渕さんの言うところの「生物曼荼羅」である。

 宮城県内で実際に「ふゆみずたんぼ」として稲作が行われているところは、田尻町の蕪栗沼の周辺の伸萌地区である。蕪栗沼は、ラムサール条約による指定湿地の伊豆沼と並ぶガンの越冬地になっている。今年の初めのある日、「ふゆみずたんぼ」の一つでガンが一泊したとのこと。つまり、マガンのねぐらとして、「ふゆみずたんぼ」が機能したということになる。「なぜそれがわかったのか」ということが私にとって興味深かったのだが、近くの住民の方々が見守っていたからということである。だから、朝早く、「ふゆみずたんぼ」から飛び立つガンの姿を確認することができた。常時関心を持っていなければ、そんな確認はできないことである。

 日本に渡ってくるマガンの9割が、宮城県で越冬する。ねぐらは伊豆沼、内沼、蕪栗沼にほぼ限定されているのだが、そこに新たに「ふゆみずたんぼ」が加わるということである。今年、アフリカのウガンダで開催されるラムサール条約締約国会議 で、蕪栗沼及び周辺水田が湿地指定を目指している。ラムサール条約で水田が湿地に指定されるとすれば、初めての例となる。

 肥料がいらない、農薬がいらない。環境にやさしい、安全なお米である。できたお米は、「ふゆみずたんぼ米」として売られているが、非常においしい。実際、1俵23,000円で売れた。平均より8000円も高い。我が家でも食する機会があったが、文句なしに美味である。

 無農薬の魅力もあるが、ガンの飛来、生物曼荼羅など、ストーリー性があるお米である。現在、「ふゆみずたんぼ」を紹介する絵本が製作中である。お米を売る時に絵本をつければ、お米のできた背景がわかる。お米として、ますます魅力を増すということになるのではないか。東京池袋に近く開所する宮城県のアンテナショップで販売されれば、話題になるだろう。高級スーパーでの販売の話もある。

 小中学校の児童の環境教育の現場としても、「ふゆみずたんぼ」は最適である。現に、そういう取組みはされている。農業科での実地研究も、複数の高校で始められているが、もっと増えてもいい。環境教育、環境と共生する新しい農業の現場があるということは、恵まれたことである。

 宮城らしい施策の展開が、さまざまな形でできそうな気がする。面白がってやればいい。そのためには、「ふゆみずたんぼ」の何たるかについて、最低限の知識を持つことが必要である。可能性を大いに秘めた「ふゆみずたんぼ」。これからの動きに期待したい。



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