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県警の内部監査

2005.4.26 

 宮城県警察本部は、4月21日、平成16年度会計監査の結果を発表した。この監査においては、平成10・11・12年度分の県費犯罪捜査報償費についても実施された。いわゆる過年度監査である。

  犯罪捜査報償費については、適正に執行されているか疑義があると私からも指摘をしていた。また、昨年4月には、仙台市民オンブズマンに対して「宮城県警でも裏金づくりをしていた」という文書を提出した元宮城県警警視がいる。私自身も、同じような告発内容を県警OBから直接聴取し、そのことは公表もしている。こういったこともあって、県警としても、きっちりした内部監査を行う必要性を認識したものと思われる。昨年7月1日から今年の3月31日にかけて監査を行い、今回その結果を発表したものである。

  今日時点では、この内部監査結果について、県警から私に対する報告は直接なされていない。出納局会計課を通じて、A4版3枚のペーパーを受領しているのみである。このペーパーにおいては、「不適正な執行は認めらなかった」とする結果が報告されている。

  今回の内部監査が、具体的にいかなる形で行われたのかの詳細は承知していない。これから説明を聞くことになろうが、この時点で把握できる範囲内で判断しても、この内部監査は不十分かつ不誠実なものであると言わざるを得ない。

  決定的なことは、犯罪捜査報償費から出されている謝礼を受け取った協力者についての調査が一切なされていないことである。「協力者が実在し、捜査報償費の支出関係書類に記載のとおりに、実際に謝礼を受け取っているのか」ということの調査が行われていない。今回の監査で、そういった調査が1件もなされていないことは、驚くべきことである。この調査をやらずに、一体、何を調べたと言えるのだろうか。

  捜査員は、当然ながら、協力者には何度も接触をしている。必要な情報を取る際、謝礼を渡す際には、直接会っているはずである。そもそも、協力者をどうやってみつけてくるのかを考えれば、既にして捜査員と協力者は密接な関係にあるはずである。協力を得る事項は、暴力団関係とかの恐ろしい事案だけではない。むしろ、そうでない事案のほうが多いのだが、「協力者の保護」を言いたてる際に、恐ろしげな事案のみが引用される傾向にある。これが、警察以外の関係者には、「それもそうかもしれない」と一歩引かせる効果をあげているのだが、そうはいかない。恐ろしげではない事案の協力者というのも、多数いるはずである。

  捜査員と協力者の接触は、捜査のためであるから、警察業務の一環である。個人的なものではない。協力者は、捜査員個人の「資産」ではない。その協力者に、警察組織のしかるべき別な人が接触して、実際の協力の有無、謝礼授受の有無を書類と突き合わせて調べることは、捜査上のなんら新たな支障になるものではない。それが捜査上の支障になるのなら、そもそもの捜査員との接触は、「協力者を危険に陥らせる」行為であり、支障そのものということになる。そんなおかしな話はない。

  ここのところがポイントである。なぜ、今回の監査で協力者についての調査を県警は回避したのか。暴力団関係などの危険な事案は回避してもいいかもしれない。そうでない事案についても、ただの1件の協力者も調査対象にしていないのは、なぜなのか。合理的説明が求められるのは当然である。捜査員に聴取して、「協力者に本当に謝礼は渡したのか」「はい、渡しました」というやりとりがあったとしても、それは客観的な調査とはならないことは、誰にだってわかる。予算の適正な執行の客観的な証拠が必要なのである。

  客観的な証拠ということでいけば、そういった書類は示せるはずである。「協力者は捜査員の個人的な資産ではない」のであるから、協力者のデータファイルは当然存在しなければならないし、協力者の証言から得られた情報もどこかでファイリングがされているはずである。そうでなければ、組織的な捜査などできるわけがない。そのファイルはどうなっているのか。1件たりともないのか。そもそも、今回の監査でその提示が求められることはあったのか。

  監査結果報告の3枚のペーパーの中に、捜査報償費に関して、「協力者との接触に要した経費の領収書に係る飲食店等については、すべて実在していることが確認された」という記述がある。飲食店が実在していることをもって、一体、どういったことが確認されたのだろうか。もちろん、実在しなければ、支出は嘘ということはわかるが、逆は真ではない。つまり、飲食店の実在が証明されれば、支出は適正ということにはならない。この程度のことをもって「不適正な執行は認められなかった」ということの論拠とする感覚には違和感で一杯である。これだけでも、今回の監査は不十分、不誠実と判断せざるを得ない根拠となる。

 県警による今回の内部監査は、真相解明には程遠い内容である。むしろ、8ヶ月もかけてこの程度の監査内容であるということ自体、「組織ぐるみ」ということの疑惑を深める結果になった。今までなら、「県警組織としては気がつかなかった」で済んだかもしれない。こういう内部監査をやったあとは、そうはいかない。そういう意味では、今回の監査結果の発表は、県警にとって新たな一歩を踏み出したということになるものと認識している。



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