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讀賣新聞 夕刊 20087.17
浅野史郎の《夢ふれあい》 第8回

「玩具でリハビリ」可能性追求

 おもちゃと福祉の取り合わせ。これを学問的に探求するのが、「玩具福祉学会」である。発足して8年、理事長は小林るつ子さん(76)で、私は名誉会長を務めている。

 小林さんは、玩具メーカーのコンサルタントとして、デパートでおもちゃ相談を担当していた。そこに障害児の母親も相談にやってくる。話を聞き、実際に障害児とおもちゃの関わり方を見るうちに、おもちゃの持つ可能性に気がついた。

 リハビリテーションをいやがる子どもが、おもちゃ相手なら楽しそうに遊ぶ。その遊びが、リハビリになっている。普段見せない笑顔に接して、一番驚いたのは母親たちであった。

 「楽しみながらのリハビリ」は、高齢者にも広がっている。東京浅草のデイサービスセンターに通う高齢者にとって、おもちゃは何よりの楽しみ。表 情の乏しかった男性がパズルを完成させた時の笑顔は、周りの人たちをも明るくする。おしゃべりをする人形で遊ぶ認知症の女性には、生き生きした動きと歯切 れのいい言葉が戻ってきた。

 最新技術を使ったおもちゃも魅力的であるが、昔ながらのおもちゃも捨てがたい。高齢者は幼いころの自分に戻り、ゆったりとした気分に包まれる。

 少子化の時代、幼児相手だけでは需要が限られる。玩具メーカーにとっても、リハビリに結びつくようなおもちゃの開発は、死活問題かもしれない。 症例を集め、リハビリ機能を分析し、障害者にとって、高齢者にとってのおもちゃの効用を広めていく。玩具福祉学会には、玩具メーカーも大きな関心を寄せて いる。

 「今度は、おもちゃで楽しく遊べる大規模なリハビリテーション・ゲームセンターを作りましょうね」。「後期高齢者」と呼ばれる年齢になっても、小林さんの夢は果てしなく広がる。

 楽しくなければリハビリでない。リハビリの専門家にとっても、そのことが常識になるような時代は、すぐにやってくるだろう。


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