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讀賣新聞 夕刊 2009.1.22
浅野史郎の《夢ふれあい》 第20回

障害者の人権守る弁護

 1月10日土曜日、「根岸いんくる法律事務所」(東京都荒川区)の事務所開きに出た。「いんくる」はインクルージョンの略で、「一人ひとりの違いや困難、生きにくさを支援し、包みこむ社会を目指す」という意味である。

 事務所の主は副島洋明弁護士(62)は昨年末から、千葉県東金市で5歳女児の遺体が発見された事件で、逮捕された男性の主任弁護人としての仕事に忙殺されている。

 男性には知的障害者がある。警察・検察に、知的障害につけ込むような取り調べがあれば、副島さんは、これに対応しなければならない。マスコミに「見込み取材」があれば、反撃が必要である。

 知的障害ゆえに、男性は、自己防御能力、コミュニケーション能力が不足している。質問者に迎合する受け答えをしがちで、捜査・取り調べで真実から離れた結論が導かれる可能性もある。

 そういった障害特性を踏まえた上で、本人・家族の人権にも配慮した弁護が必要なのである。

 自閉症の男性が女子大生を刺殺した「浅草レッサーパンダ事件」の弁護にもあたった副島さん。

 「お金にならないような活動ばかりで、事務所の運営は大丈夫か」と私は冗談半分で聞くが、副島さんは意に介さない。変わり者を自称しながら、「還暦過ぎて、やりたいことに挑戦する」と意気軒昂である。

 20年以上前、私は厚生省の障害福祉課長として、「障害者の人権問題懇談会」を主宰していた。

 「いんくる」は、懇談会の中心メンバーで、7年前に亡くなった長谷川泰造弁護士の事務所を昨年暮れから新しい事務所として使い、同じメンバーで社会福祉法人南愛隣会(長崎県)理事長の田島良昭さんらの支援を受けている。

 障害者の人権は、障害者本人だけでは守れない。その活動は、すべての人の人権を守ることにつながる。志を同じくする100人ほどが集まった事務所開きで、私も微力を尽くすことを誓った。