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讀賣新聞 夕刊 2008.4.17.
浅野史郎の《夢ふれあい》 第2回

表現の衝動 障害者アート

 障害者アートの「ボーダレス・アートミュージアムNO―MA」(滋賀県近江八幡市)で、企画展「アール・ブリュット/交差する魂」が開かれている。スイス・ローザンヌ市にあるアール・ブリュット美術館との共催である。

 展示作品は、知的障害や精神障害を持った人たちの手によるものが中心だが、いわゆる障害者の作品展とはちょっと違う。

 フランス語で「生の芸術」を意味するアール・ブリュットは、英語ではアウトサイダー・アートと呼ばれる。つまり、正規の美術教育を受けていない人(アウトサイダー)の手による作品ということなのである。

 同じ時期に、日本からの作品が、アール・ブリュット美術館で展示されている。知的障害を持ち、自宅や授産施設で制作活動を続ける本岡秀則さん(30)、舛次崇さん(33)の作品も出展されている。

 2人が開幕式に出席する直前の2月に、彼らと話をする機会があった。

 電車大好きの本岡さんの作品は、1枚の紙に数多くの電車の正面が精密にびっしり描かれている。舛次さんは、主に黒のパステルを使った、直感による「写生」を力強く描く。

 2人の作品は、表現したくて仕方がないという衝動の産物である。「障害を克服して、こんな素晴らしい絵を描いた、すごい、すごい」ではない。

 欧米では適正に評価されているアール・ブリュットの作品と日本の作品が、初めて出会う。障害とは何かだけでなく、芸術とは何かということを、直接に問うてくる作品群である。

 海外のアール・ブリュットの作品のように、彼らの作品も、いずれ高く売れるようになるだろう。本岡さんや舛次さんのような人たちが、芸術を通しての職業生活が成り立つようになることも、夢ではない。

 企画展は、5月11日まで。この後、5月24日から7月20日まで、東京・港区の松下電工汐留ミュージアムで開催される


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