浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

 

讀賣新聞 夕刊 2008.8.21
浅野史郎の《夢ふれあい》 第10回

「非専門家」参加で世直しを

 慶應義塾大学湘南キャンパスの総合政策学部教授に就任して3年目。主に、政治学と地方自治を教えているが、障害福祉に関した研究会(ゼミ)も、当初から担当している。

 相手は、総合政策学部と環境情報学部の学部生35名。福祉を目指すどころか、障害福祉に関して通り一遍以上の経験や興味を持っている者もほとんどいない。

  彼らに対して、私は「障害福祉とは、あわれでかわいそうな障害者に、何かいいことをやってあげるということではない」と宣言した。「だったら、何ですか」と問われ、待ってましたとばかりに、「それはな、世直しなんだ、国づくりなんだ。そのことが、胸にストンと落ちるように、障害者の活動の姿を見たり、ゲストの話を聞いたりしてみよう」と答えた。

 研究会で強調しているのは、「非専門家」の役割である。障害福祉の仕事が、障害者本人や家族、職業として関わる人たち、既に目覚めているボランティアだけにとどまっていてはならない。この分野に、全く関心がない「非専門家」を巻き込んでこそ、社会を変えることにたうながるのである。

 私は学生を、この「巻き込み作戦」にかかわらせたいと考えている。具体的には、障害者の就労、統合教育、障害者の芸術活動、地域の施設の活動の分野を通じて、非専門家を巻き込んでいく状況を、まずは体験してもらうことである。この連載でも取り上げた「メール便」「アールブリュット」「朋」などの活動である。

 学生たちは、障害福祉の仕事が、非専門家を巻き込みながら実際にどのように動いているかを知り、障害者を支援するだけでなく、世の中を変えつつあることを実感しているようだ。

 彼らは卒業後、金融、マスコミ、情報技術(IT)産業、公務員などの仕事に就くが、研究会での体験は、それぞれの職場で生かされるはずだ。そのことが、世直しのきっかけにならないかと夢見ながら、研究会を続けている。


TOP][NEWS][日記][メルマガ][記事][連載][プロフィール][著作][夢ネットワーク][リンク

(c)浅野史郎・夢ネットワーク mailto:yumenet@asanoshiro.org