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宋 文洲 氏のメルマガ
第102号 2008.8.8配信
連載コラム「病識、常識、非常識」
第5回

福田改造内閣

 福田改造内閣が、8月2日、正式に発足した。どの大臣が適任か不適任かといっ た批評には興味がない。そもそも、内閣とは何か、大臣とはどんなものか、そ ういったことに大きな関心がある。

  思い起こせば、福田内閣総理大臣の発足の経緯からして、異例なものであった ことを思い起こすべきである。安倍晋三首相の突然の辞任表明を受けての、バ タバタの中での自民党総裁選び。国会での首班指名は、安倍首相の場合も同様 だが、小泉首相による郵政解散での衆議院選挙大勝の「遺産」の上に乗っかっ てのものである。福田氏は、国民の信任を得ているという自信を持つ契機がな いままに、首相を務めている格好になる。

  こういった経緯もあり、福田政権発足時には、自前の内閣というよりは、安倍 内閣を居抜きで譲り受ける形で、ほとんどの閣僚が留任した。いくらなんでも、 いつまでも自前の内閣を持たないわけにはいかないということから、今回の内 閣改造になった。政策をどうこうというよりも、政局への関心が前面に出てい る。これには、大きな疑問符をつけたい。

  そもそもが、緊急リリーフで登板した福田投手であるから、解散して臨む衆議 院選挙できっちり勝利して、堂々たる内閣総理大臣になるまでは、リリーフと いう役柄に徹したらいいのではないか。それよりも、なによりも、この時期の 内閣改造に反対するもっと大きな理由は、大臣をそんなに頻繁に挿げ替えるべ きではないということである。

  官僚主導の政策が、さまざまな分野で壁にぶつかっている。政治主導というな ら、まずは、大臣の指導力が発揮されなければならない。官僚に甘く見られな いためにも、来ては帰る季節労働者と見られるような大臣のイメージを払拭す べきである。

  大臣が、官僚機構をきっちりと把握し、管理する、つまり、マネジメント能力 の向上ということであるが、これは、二つの意味で、時代の要請である。

  一つは、今の日本が抱えている懸案が、官僚主導の政策変更では対応できない レベルであることである。懸案解決のためには、本当の意味での政治主導が必 要であり、今こそ政治の出番である。

  国会に提案される政策原案は、大臣主導の下に、「政治的に」策定されなけれ ばならない。そのためには、大臣が、官僚機構をしっかり使いこなして、マネ ジメントを確立しなければならないのは当然である。数ヶ月で、来ては帰る季 節労働者、もっと厳しい表現では、一日署長のような大臣では、マネジメント など、とても無理である。

  大臣がマネジメントを確立すべき、もう一つの理由は、各省の信頼回復である。 大臣が省内を把握していないから、役所のやりたい放題になっている。基本は、 情報公開である。公開どころか、大臣にさえ、真実の情報が隠されている実態 では、信頼回復どころではない。大臣がマネジメントを発揮し、官僚組織に対 し、「大臣にだけでなく、国民の前からも情報を隠すな」と厳格に指示すると ころから、省内の規律は確保されることになる。

  今回の内閣改造で、福田政権の支持率がどうなったとか、麻生幹事長を誕生さ せたことの持つ意味はどうだという話は、しょせん、コップの中の話である。 コップそのものを変える可能性がある中では、ほとんど意味がない。それより も、具体的政策をどう進めるのかのほうが、よっぽど大事なことである。だと すれば、大臣の首を数ヶ月で挿げ替えることの愚を、きっちりと指摘しておく 必要がある。

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