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宋 文洲 氏のメルマガ
第100号 2008.7.11配信
連載コラム「病識、常識、非常識」
第3回

霞ヶ関の無駄遣い

 居酒屋タクシーには参った。個人タクシーの運転手から、ビールのご接待やら 現金をもらってはいけない。税金を使ってのタクシー利用であることを忘れて しまったのだろうか。

  役人の綱紀の緩みのわかりやすい事例だから、怒りの声も上がりやすかった。 タクシーで接待を受けた役人はこれで全部か、調査の仕方はお手盛りではない のかの疑問も残った。

 確かに、みみっちい話ではある。重箱の隅を突つくような事例に見える。しか し、重箱の隅にこそ真実はある、神は細部に宿り給うということはある。重箱 の隅に汚れがあれば、重箱の真ん中だって汚れているだろうと勘ぐるのは、当 然の成り行きだろう。

  その重箱の真ん中、役所、役人の無駄遣いの本命を探求しなければならない。 公共事業や、防衛装備品の受注に関する収賄は見逃せない。不埒な役人といっ た、個人の問題に矮小化してはならない。入札制度の欠陥であり、競争性の保 たれた透明性のある入札がなされていないことからくる無駄遣いの問題である、 システムの問題で考えるべきものである。道路特定財源でマッサージチェアを 購入したという「重箱の隅」も、特定財源というシステム自体が要因であるこ とには、国民もやっと気がついた。

  情報公開の不徹底からくる緊張感のなさ、やりたい放題もある。情報公開制度 においては、地方自治体のほうが中央官庁の何歩も先を行っている。そういっ た先進自治体では、無駄遣いをすれば、ガラス張りの行政なので、すべて見え てしまう。自治体の裏金づくりなどのスキャンダルが露見したのは、情報公開 の仕組みが機能したからとも言える。

  さらに言えば、自治体は無駄遣いをしている余裕がない。財政的には、どこも 崖っぷちに近い。赤字地方債の発行は、基本的に、認められない。一定額以上 の赤字を出せば、財政再生団体になり、レッドカードにあたる財政破綻認定が なされる。知事、市長の選挙で政権交代がなされる緊張感が役所全体にみなぎ る。政権交代後に思い切った財政改革がなされるのは、大阪府の「橋下改革」 を見ればわかる。無駄遣いなど、とてもできない。

  霞ヶ関での無駄遣いに、政党のプロジェクト・チームが切り込むには限界があ る。制度的には、会計検査院の役割である。内閣から独立して、大きな権限を 持たされている検査院が、本来の機能を発揮しているのか、大いに疑問である。 なぜ疑問の声が大きく上がらないのかも疑問である。霞ヶ関全体として、責任 ある財政運営の態勢ができているのか。各省のトップたる大臣は実態を把握し、 無駄遣い一掃のリーダーシップを発揮しているのか。その対応の如何が、政権 の存亡にも関わるといった緊張感が見られないのは、なぜなのだろうか。

  「霞ヶ関の常識は、世の中の非常識」といった声が、国内に満ち満ちてくる前 に、しかるべき責任者が、しかるべき対応をしなければ、しかるべき結果が待 っているだろう。

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