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月刊年金時代2009年4月号
新・言語学序説から 第80

「政治ネタについて」

 政治や政治家がらみの言葉の遊び、いろいろあるが、つれづれなるままに、書き出してみる。

三角大福  
  もう40年も前のことになる。佐藤栄作首相の後を襲う総理大臣候補、三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫の姓の最初の文字を並べたもの。田中角栄さんだけは、「田中さん」ではなく「角さん」で通っていたから、名前の一番前の文字が取られている。当時は、佐藤栄作内閣の末期であり、「三角大福は、サトウ抜き」というオチもついていた。この4人に中曽根康弘氏を加えて、三角大福中という言い方もされた。いろいろあったが結局は全員が、その後、総理大臣を務めたことになる。

 それから40年後。小泉純一郎首相の後の自民党総裁選びで、「麻垣康三」というのが流布された時期があったが、あまり深い印象を与えていない。二番目の谷垣禎一さん以外は、みんな総理大臣になったが、「麻垣康三」というのに、特別な意味があるわけではないし、三角大福に比べれば、みんな、あまりにも小粒ということもあるのかもしれない。

「イットってなんだ」
 森 喜朗元首相は、「サメの脳みそ、ノミの心臓」と揶揄される時期があった。「IT革命」を「イット革命」と言ったということが伝えられているが、どうも作り話っぽい。ホントかウソかは別として、「そういうこともあるかもね」と思わせることだけで、話としては十分である。

 クリントン大統領に会ったら、まず、「ハウアーユー」と言いなさい。大統領は、「アイアムファイン」と答えるだろうから、こちらは「ミートゥー」と返せばいいと教えられてホワイトハウスに向かったのが、ある国の英語のできない某首脳。その彼が、「ハウアーユー」と言うのを間違えて、「フーアーユー」と言ってしまった。クリントン大統領が、「アイム、ヒラリーズハズバンド」と答えたのに、彼は「ミートゥー」と返してしまった。

 これは、古典的なジョークなのだが、森首相の話として、まことしやかに伝わっていた。当然、作り話なのだが、これも、「さもありなん」と思われてしまう余地がある。権力の座にいる政治家に対しては、ジョークも辛らつになる。言葉遊びというより、いじめのようなものだろう。

へなチョコ  
  安倍晋三元首相の奥さんのお父さんは、某菓子メーカーの社長をしていた方であるとか。安倍氏が首相辞任したのを記念して、その菓子メーカーは、新しいチョコレートを発売することにして、商品名だけは決めていた。それが「へなチョコ」。これは、時事ネタを得意とするコントグループのザ・ニュースペーパーの一員である松下アキラさんのライブパフォーマンスで、私が聴いたネタ。思わず、大笑いしてしまった。一国の総理大臣(だった人)を、こういった言葉遊びでおちょくるのは、時事ネタコントの真骨頂だろう。

 小泉さんが首相を辞めて、安倍さんで若返りを図ろうと思ったら、福田になって宙返り、というのもあった。松下さんは、小泉純一郎さんの真似をさせたら、外観もしゃべり方もそっくりで、めちゃくちゃ面白い。昨今の政治状況は、松下さんやザ・ニュースペーパーにとって、ネタの宝庫みたいなものだろう。こういうことで、政権をおちょくっても、彼らは身の危険を感じないだろう。実は、そういうような政治体制というのは、それなりに貴重なものであるということにも、考えを及ぼす必要がある。

「みぞうゆうの経済危機」  
  言わずと知れた麻生首相の「漢字読み間違え」である。いろいろな人が、いろいろな場面でこれをネタに使う。私も、講演の中で使うことがある。ホントに私が漢字を読めないと思う人は皆無であることがわかっているので、安心してネタとして使える。一年前に、こんなことを言ったら、言っている私が秘かに馬鹿にされていただろう。

 他に、踏襲を「ふしゅう」、詳細を「ようさい」といった、驚くような麻生首相の読み間違えが、国民の前に明らかになっている。こんなことが、冗談として扱われること自体、実のところ、政治状況としては、とても深刻なことである。政治の中身そのものではなくて、「ひょっとして、わが国の首相は、教養人として身に着けておくべき最低限の常識も持っていないのではないか」と国民一般が疑ってしまうような状況は、国民にとっては決して幸せなことではない。百回の失言よりも、こちらの漢字読み間違えのほうが、ボディブローのように、政権維持への危機として効いてくるような気がする。

麻生流  
  大相撲初場所の前、それまで三場所休場が続き、稽古総見でも白鵬に歯が立たなかった朝青龍に対して、多くの専門家や相撲ファンは、「これで朝青龍の相撲人生も終わりだろう」と見ていた。初場所が始まって、その見方を覆すような朝青龍の活躍が見られた。初日から勝ち続け、最後は、優勝決定戦で白鵬を破って優勝。思わず、土俵上でガッツポーズを取ってしまい、横綱の品格に欠けると厳重注意を受けるほどであった。

 この経過を見ていて、私は早くから、「朝青龍の活躍を日本で一番期待しているのは、麻生首相だろう」と言っていた。支持率は低迷し、漢字読み間違えなどで、首相不適格と批判され、ぼろくそ状態だった自分を、場所前の朝青龍の姿を重ね合わせていたのではないか。「今に見ていろ」と思っていたのは、朝青龍と同じではないか。そして、その朝青龍が優勝を飾って、見事に復活を果たした。「俺だって・・・」を麻生首相も思わないわけがないだろう。千秋楽に賜杯を朝青龍に渡したのは、麻生首相であったが、その時に、こんなことが首相の頭に去来したはず。

 そんなことを思っていたら、朝日新聞の「かたえくぼ」に「麻生流」が載っていた。これは「あさしょうりゅう」と読むのだそうだ。これには、思わず笑ってしまい、「やられた」の言葉が口に出てしまった。うまい。そこまでは、気がつかなかった。言葉遊びの極みである。


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