浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

 

月刊年金時代2007年8月号
新・言語学序説から 第60

「クイズ番組について」

 テレビを見る機会が少ない私である。たまにつけるテレビで見るとはなしに見るのは、バラエティ、スポーツ、そしてクイズ番組が多い。クイズ番組は、制作費があまりかからず、手軽にできて視聴率がそこそこ稼げるので、テレビ局とすれば、「おいしい」らしい。真偽のほどは、わからない。

 そもそも、「クイズ」の語源をご存知だろうか。どっかの国のどっかの町の青年が、一晩かかって町中に「QUIZ」という文字を書きなぐった。翌朝、そこの町の住人が、この訳のわからない文字を囲んで、「何だろう」と言い合った。そこで、意味の分からないことをクイズというようになったらしい。真偽のほど、これもよくわからない。

 若い頃は、クイズ番組は嫌いではなかった。雑学や教養知識も豊富だった時期である。今、年老いて、記憶もあいまいになった。芸能界は、まったく情報がない。スポーツも、格闘技やゴルフ、競馬など、興味が薄い分野では、知識ゼロである。映画をほとんど見ない生活が長いので、この分野もダメ。ということで、最近の私は、「クイズには自信がない」という状態になっている。

 その私に、「クイズ番組に出ませんか」というお誘いがやってきた。具体的には、フジテレビ系で放送の「クイズ・ミリオネア」である。今は、特別番組としてしかやってないらしい。司会のみのもんたさんと回答者との心理戦のようなやりとりが評判であり、何よりも、賞金が一千万円と高額なことも視聴者の興味を引く。

 宮城県知事をやめてからの私は、テレビ出演の機会が多くなっているが、いわゆるバラエティ関係の番組への出演は、基本的にお断りしている。妻からも、「何でも出ればいいというものではありませんから」と釘をさされている。クイズ番組もバラエティの一種であろうが、「ミリオネア」出演の話が舞い込んできた時に、妻が「ノー」と言わなかったのは、一千万円の魅力と無関係であったとは思えない。これも、真偽のほどは、よくわからない。

 私のほうには、出演することにとまどいがあった。一言、恥をかきたくない。回答者は私一人である。芸能、スポーツの問題なら構わないが、一般教養の問題で答えられなかったら、「浅野はバカ」ということが、テレビ画面を通じて全国に広まってしまう。一千万円取れるか取れないかより、私の名誉が掛かっていることが怖い。

 とはいえ、面白そう、楽しそうという期待もあった。司会のみのさんとは、TBS系の「朝ズバ」でご一緒していている。もちろん、一千万円の魅力も無視できない。ということで、やってみようということになった。

 番組は、生放送ではなく、収録である。お台場のフジテレビに、妻と娘聡子と三人ででかけた。スタジオでの応援団の生島ヒロシさんも、遅れて登場。「ライフライン」の一つ、テレフォンで助けてくれる慶應義塾大学SFCでの私の教え子四人もスタンバイしてくれていた。

 私の前に収録していたのは、俳優のTさん。私は、スタジオ近くでスタンバイしながら、モニター画面で見ていた。回答で迷うたびに、Tさんの顔が画面に大写しになる。さすが人気俳優だけあって、見栄えがする。次に出る私は、それだけでプレッシャーである。その彼は、・・・・・。結果を書くのはやめておこう。

  いよいよ私の収録の番が来た。私としては、一千万円獲得は、絶対にないと思っていたし、目標にもしていなかった。妻は、当初は「百万円は取りたいね」と言っていたが、収録直前には、「十万円でいいから」と目標を下げてくれた。「恥かきたくない」で固まっている私は、獲得金額はどうでもいい。「できてあたりまえ」という問題ではずしたらどうしようということばかり頭に浮かび、相当緊張して回答者席についていた。

 最初の一万円の問題は、「次のうち、鳥類はどれ」として、「ワシ、オマエ、アナタ、オレ」から選ぶ。次は、「百円で、三十円のお饅頭いくつまで買える」といったもので、これは笑いを取るための出題らしい。こんなことで笑っているうちに、私の気持ちもだいぶ楽になっていた。

  「韓国料理でごはんにスープを入れるもの」でプルゴギかクッパかで迷ったが、クッパで正解。みのさんには、「浅野さん、自信を持って」と励まされた。ディレクターには、コマーシャルの時間に、「正解したら、もう少し派手に喜んで」と言われた。

 百万円クリヤの問題が何だったか、忘れてしまったが、クリヤの瞬間には、心底ホッとした。これで、百万円は獲得できたということと、赤恥はかかないで済んだという両方である。ビデオ出演で、菅原文太さんが応援のメッセージを寄せてくれた。

 「女性二人組みのお笑いグループ」という問題では、「ハリセンボン」という答に確信が持てなかったので、ライフラインのオーディエンスを使った。「次のうち、外来語はどれ」で、「旦那」か「亭主」かで迷って、ライフラインの50:50を使ったら、この二つが残ったので、結果的には無駄な使い方。少し不安だったが、旦那で正解。

 750万円の問題は、松竹梅がめでたいものとされた由来について。ここは、学生の出番である。テレフォンでつなげば、インターネットでの早業検索で、30秒の制限時間内にきっと正解を出してくれると信じていた。学生が教えてくれた「寒さに強い」と私が回答した時には、「学生を信じているから、これでファイナルアンサー」と力強く言ってやった。これが正解。よくやった、学生諸君! これで一千万円に挑戦できる立場になった安心感もあって、涙ぐみそうになった。

 一千万円の問題は、むずかしかった。「浦島太郎が玉手箱を開ける直前にしたことは何」という問題。私の答は、「毒を飲んで死のうとした」というものだった。さて、これが正解で、私が一千万円を獲得したのか、ダメだったのか。この文章が活字になる頃には、答は出ているのだが、これもクイズということで、結果発表はせめて一カ月お待ちいただきたい。


TOP][NEWS][日記][メルマガ][記事][連載][プロフィール][著作][夢ネットワーク][リンク

(c)浅野史郎・夢ネットワーク mailto:yumenet@asanoshiro.org