時事評論 2001/8月号から 「スローフード運動」 わが宮城県の宮崎町は人口六千人ほどの町である。この町で、宮城版スローフード運動のようなものが始まっている。 スローフード運動はイタリア発祥の運動である。単にゆっくり食べようということだけでなく、地元の食材を使い、伝統的な料理法で、家族や仲間と一緒に楽しく食べようというものである。ファーストフードの画一性への反発から始まったが、それを越える食文化の実践である。 三年前、宮崎町で地元の材料を使った、自慢料理を町の体育館に集めて「食の文化祭」をやろうということになった。できた料理には、製作者の名前とレシピを添えてということであったが、そもそもレシピとは何かがわからない。「お砂糖を小匙に何杯」ではなくて、感性とその時の気分で作っている料理なので、いまさら「作り方を」と言われても困る。当初は五十品目ぐらいしか集まらないという見込みを示されて、主催者はあせった。 それでも、十一月の第一日曜日の開催日までに、なんとか八百品目まで集めることができた。翌年の第二回は千三百品目集まった。第一回からお誘いを受けているが、日程の都合で行けずにいる私としては、写真と話で想像するしかない。世帯数が千五百の町でこんなことをやってしまうエネルギーに驚嘆してしまう。 「スローフード運動を宮城県でも」と私は考えているが、そう思って見渡してみると、面白い素材が県内に結構あることに気が付く。 例えば農家レストラン。宮城県には、三十を越える農家レストランがある。そのうちの三ヶ所ほどでは、実際に食事をしたことがある。農家ならではの特色ある料理で、一流レストランとはまた違った満足感を感じることができる。 食という切り口から、新しい文化のあり方を探れないだろうか。地方の小さな町にまで押し寄せている画一化の波を、独特の食文化を守るということで乗り越えることができないだろうか。 ミニ東京、リトル仙台を目指すのではない。「大いなる田舎」を目指し、よそにはない食べ物を徹底的に追求して、次の時代に残すという意気込みこそが、その地に住むことの誇りにつながる。そういった意味で、食探しは地域おこしそのものである。県としても、なんらかの形でスローフード運動に関わっていく必然性がありそうな気がする。 [TOP][NEWS][日記][メルマガ][記事][連載][プロフィール][著作][夢ネットワーク][リンク] (c)浅野史郎・夢ネットワーク mailto:yumenet@asanoshiro.org
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