浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

 

時事評論から2001/4月号から
地方からの発信

「情報はいきもの」

  外務省の要人外国訪問支援室長による機密費流用事件は、一個人による単なる犯罪事件以上の様相を呈している。「組織ぐるみ」とまで言い切れなくとも、元室長の行為をさほど不思議と思わない雰囲気又は文化が組織内に存在していたのではないか。

 問題の背景に、「外交上の秘密」がある。「外交・防衛」と言われると、ふつうの国民は一瞬恐れ入ってしまう。「犯罪の予防、治安の維持」も同様である。

 この点が、まさにわが宮城県の情報公開条例の改正にあたって論じられた。県警本部を情報公開条例の対象に加えるにあたり、県警本部長が、「犯罪の予防、治安の維持が侵されるおそれ」を理由に文書を非開示にする裁量を、どれだけ認めるかの議論である。結局は、予算執行文書の非開示判断には、県警本部長の裁量の余地を限定して、裁判になったときには、その第一次判断権を尊重することなく、裁判官の裁量によるという規定の仕方にした。

 決して、重箱の隅をつつくような議論ではない。「犯罪の予防、治安の維持」が持ち出されることによって、警察の文書が幅広に非開示にされることに歯止めをかけること、この点に知事として最大限の配慮をした。「知事対県警本部長の大げんか」などと面白おかしく評されたが、私の真意はここにある。

 外務省の機密費流用事件は、情報公開のあり方議論につながる。外交上の秘密に属するのだから情報開示はできないとすることは、一見もっともらしい。しかし、待てよ。なんでもかんでも非開示か。開示できるものものあるのではないか。使途が明らかにできない資金を任された人間に期待される倫理観は限りなく高くなければならない。組織内で資金の乱用をチェックするシステムが確立していなければならない。

 こういったことを考えるにつけ、情報公開は生きものだという感を深くする。「外交、防衛に関する文書はすべからく非開示」といった単純な理屈では動かない。危険ですらある。宮城県の情報公開条例の施行は一九九〇年。国の情報公開法は、やっとこの四月に施行になった。少なくとも、この分野においては地方が先行している。地方の立場からも、情報公開に関する国の動きを見守っていきたい。 


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