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月刊ガバナンス平成29年5月号
続アサノ・ネクストから 第80

自治体の住民が元気を 取り戻すために

 自治体に元気がないとの声をよく聞く。自治体に元気がないというのは、住民に元気がないということである。住民に元気がないから、行政にも元気がない、議会にも元気がない。

 住民に元気がないのは、住民が自治体のために行動しないからである。行動しないのは自治体内で起きていることに関心がないからである。自分たちの抱える問題・課題に気がついていない、気がついていてもどう解決すべきかがわからない。

 住民が暮らす地域に問題がないはずがない。住民には不満もある。それを誰にぶつければいいのかわからない。言ってどうにかなった実体験がないので、言っても無駄だと思ってしまう。

 誰かが住民の思いを汲み上げなければならない。その誰かとは議員である。行政は、こういったことは得意でない。議員の日常活動として、「今、何困ってますか?」と聞き出す御用聞きがある。

 御用聞きをしても、住民から何も引き出せないかもしれない。実際は困っていることがあるのに、気づいていないこともありうる。要望に気づかせる、要望があっても言葉にできないものを補ってやるといった技術も必要である。それで得られる要望項目を議会に持ち寄り、その要望を解決する方策を議会で議論し、政策として打ち出す。これが議会の役割である。

 北海道栗山町議会が日本で最初に策定した「議会基本条例」では、「町民との意見交換のための一般会議を設置する」と「請願・陳情を町民からの政策提案として位置つ?ける」という項目が示されている。「一般会議」で提案されたことが政策として実現を見、住民の請願・陳情が政策提案として位置づけられたならば、住民は自治体改革に参画した実感を味わうことだろう。このような経験を通じて、住民は議会・行政との一体化を実感することになる。住民として自治体のために行動しようという意欲も湧いてくる。住民は元気になるのである。

 住民が議会・行政と一緒になって取り組む自治体の課題はいろいろある。その中でも、災害対応は住民にとって最も切実な課題である。災害対応については、住民自身がやるべきことがたくさんある。災害発生後の住民同士の助け合い、相互安否確認は自然発生的に行われるが、事前の対応は意識的に行うものである。災害に備えた自主防災組織の構築、防災マップの作成、防災訓練の実施といった活動が考えられる。こういった活動を通じて、住民は地域のまとまりを実感することになるし、なにより、この活動自体が住民の元気の源になる。その際には、行政からの働きかけが不可欠である。

 地方創生も、住民が議会・行政と一体となって取り組むべき課題である。このプロジェクトに住民が関わり、結果を出せば、住民は大いに元気になる。活動が始動するには、行政からの動機づけが必要なことも指摘したい。

 自治体の抱える問題に住民が関心を持ち、問題意識を共有し、解決のための行動に移る。それによって、住民が元気になり、自治体が元気を取り戻す。この流れをつくるには、議会と行政の積極的な働きかけが必要である。  


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