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月刊ガバナンス平成23年5月号
続アサノ・ネクストから 第8

大震災から新しい町づくりへ

 今回の巨大地震・大津波で、東北地方の太平洋沿岸の町は、大きな被害を受けた。多くの人命が奪われ、家屋や車といった個人財産だけでなく、工場、水産業や農業などの生産基盤も壊滅的被害を蒙った。

 こういった自治体では、これからの復旧、復興に、どれだけの財源と、どれだけの時間がかかるか。がれきの中から、未来への展望、希望を見出すのは、とてもむずかしいが、自治体の方々には、明るい未来の展望を持って欲しいと、この時点で強く望む。

 ゴール、目標を、あえて高く掲げる。より高い目標は、復興を超えた創造である。今までの日本にはなかったような、新しい町づくりをすることは、ゼロからのスタートだからこそ可能である。物理的な町づくりだけではない。自治体経営の新しいシステムづくりをも含む構想である。

 ゼロからの出発ということでいけば、自治体の行政組織をゼロから見直す。本当に必要な組織だけを残す。新しい需要に合った組織をつくる。事業にしても、「新しい町」にとって、有用なものだけに特化する。

 自治体経営システムについては、当面、議会を持たないこととする。実際に、「新しい町」の自治体経営を議会なしで進めていって、どんな支障が出るか。住民は、議会(のようなもの)を望んでいるのか、どういった機能を果たすものとして期待しているのか、そういった盛り上がりの中から生まれるものこそ、新しい町にふさわしい。「議会を(いったん)なくす」などという乱暴なことは、前例なき壊滅的被災をした自治体であるからこそ許される緊急避難だと考えればいい。

 (新生する)議会や首長の選挙での選挙権を、「18歳以上」とする特別措置を、壊滅的被害を受けた自治体に限って認めることにしてはどうか。地域の復興の主役は、若者である。その地域に残ることにした若者には、20歳を待たずに選挙権を与えてもいい。選挙権付与の年齢引き下げの動きが、そこから全国に広がっていくことは、むしろ望ましい方向だろう。

 復興には財源がいる。しばらくは、地方税収入は大きく落ち込むだろう。国からの財政的支援は、不可欠である。しかし、その支援が「ひもつき」であってはならない。一定のルールにしたがって算出された財源を一括交付して、あとは被災自治体の裁量に任せる。新しい町づくりは、文字どおり、自治の精神が貫かれた環境でしか成功しない。そのことで、日本の自治体のありかたを先取りする契機になる。そういった先導的役割を期待する。

 今回の被災で我々が見たものは、被災地の人たち同士の団結、連帯の強さである。自分たちの生まれ育った土地への愛着も感じ取った。そして、決してあきらめない意志の強さ、未来に向かって進んでいこうという意欲、このことが、被災地だからこそ際立って見えた。ここに復興の鍵がある。いや、復興を超えた創造の可能性である。住民の方はまだ意識していないだろうが、日本で初めて、本当の意味での地方自治と民主主義を根づかせる尖兵としての役割が期待されているのである。


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