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月刊ガバナンス平成29年3月号
続アサノ・ネクストから 第78

IR推進は慎重に

 IR(統合型リゾート)推進法案が昨年12月成立した。「カジノ解禁法案」ともいわれるように、カジノの設置を認めることが法案の中心である。今後は政府内で検討を進め、IR実施法案を策定し年内に国会に提出することになる。

 カジノ解禁については、法案の国会審議では強硬な反対があった。反対理由は、ギャンブル依存症対策の不備、治安の悪化である。慎重審議を求める声もあったが、法案は臨時国会の会期末に成立の運びとなった。

 法案成立を受けて、カジノを含むリゾート施設(特定複合観光施設)の誘致にいくつかの自治体が動き出している。最も強力に進めているのが大阪府。横浜市、佐世保市などがそれに続く。総合型のリゾート施設には観光客の流入が期待できるし、新規の雇用が生まれる、地域経済の発展に寄与するということで、自治体にとってはいいことづくめのようである。

 リゾート施設のうちのカジノ設置については、住民の一部には根強い反対論が見られる。周辺環境の悪化、暴力団の関与などへの不安もある。そのようなことから、自治体のイメージダウンにつながりかねない。

 先の話だが、政府提案の関連法案が成立し、自治体がカジノ誘致に成功した場合、自治体住民の反応はどのようになるだろうか。「景気が回復する」、「地域の発展に寄与する」というが、カジノ施設の近くの住民にとっては、平穏な日常生活のほうが優先する。地域の風格、品性を尊ぶ立場からは、「ギャンブル施設」への不安感もある。「カジノ施設設置反対」の住民投票が提起されたらどうなるか、結果の予測はつかない。

 カジノ以外の施設について見てみよう。会議施設、宿泊施設、飲食施設、ショッピングモール、テーマパーク、スポーツ施設、美術館・博物館、劇場、イベントプラザなどが考えられる。これだけの施設の整備に要する費用、土地の取得に要する費用は莫大なものになる。施設運営にも大きな経費がかかる。黒字が見込まれるだろうか、そしてそれがどれだけ長く続けられるだろうか。1980年代のバブル期に大型リゾート地域開発が続々と破綻した記憶がいまだ生々しいだけに、不安はぬぐえない。

 IR推進派の人たちは、安倍首相も視察したシンガポールのIRが世界中から集客し、大きな経済効果を上げていることを成功例として喧伝する。シンガポールで成功しているから日本でも、とはいかない。ホテル、コンベンションホール、劇場などの稼働率が年間を通して高く維持できるか、テーマパークは他のテーマパークに伍して集客できるか、越えるべきハードルは高い。

 過去のリゾートバブルの崩壊の歴史を思い出すまでもなく、長期にわたって隆盛を維持することは決して容易ではない。カジノ設置については、住民の反対でつぶれるリスクもある。

 IR列車は動き出しているので、これを止めるのはむずかしい。せめては、慎重に進めて欲しい。リスクを最小にするために、まずは一ヶ所から始めるべきである。      


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