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月刊ガバナンス平成28年4月号
続アサノ・ネクストから 第6
7回

高齢者介護と自治体の責任

 日本全体が高齢社会を迎えている中で、すべての自治体は老人介護という深刻な問題を抱えている。資産、所得の多寡に関係なく、住民誰もが老後に不安を感じており、特に、介護に関する不安が最も大きい。

 介護を要する高齢者が、どこで介護を受けるかは、深刻な問題である。特に、家計に余裕がない高齢者にとっては、選択肢が限られる。

 特別養護老人ホーム(特養)は所得が低い人でも利用できる料金設定になっているが、入所待機者が多く、入所まで数年待ちの状況である。全国8千施設の待機者は50万人超と言われている。有料老人ホーム入居には数百万円の一時金に加えて、月に二十万円以上の利用料がかかり、富裕層でなければ入居できない。

 行くところがない高齢者を受け入れる施設として最近増えているのが、無届けの有料老人ホームである。家賃、食事代、管理費合わせて月10万円以下というところもあるが、無届けなので、国も自治体も実態が把握できていない。狭いうえに、介護体制も不十分、防災設備もない劣悪なところが多い。デイサービスが終わっても帰らない利用者を、そのまま泊まらせる形の「お泊りデイ」があるが、これも劣悪のものが多い。

 こういった、介護難民になりかねない高齢者を多く抱える自治体としては、特養の増設を図らなければならないが、ハードルは高い。特養建設用の土地が足りない東京圏ではむずかしい。それに加えて、介護職員不足が深刻である。特養増設が進まないとなると、増田寛也氏が「東京消滅-介護破綻と地方移住」(中公新書)で提唱している「要介護高齢者の地方移住」が現実味を帯びてくる。

 東京圏で抱えきれない要介護高齢者に地方移住を促すといっても、ことは簡単ではない。自治体同士の要介護高齢者の押し付け合いになっても困る。高齢者が若い時期を過ごした自治体に居続けたいというのなら、その願いを叶えるのが自治体の責任である。

 東京圏内の自治体には、要介護高齢者が急増することと特養建設の困難さという二重の課題がある。他の圏域の自治体に比べて財政的に余裕がある強みを活かして、これらの課題を乗り越えていかなければならない。そのために残された時間はあまりない。

 今後、ますます増えていく要介護高齢者だが、受け入れ施設の増設が追いつかない。介護職員の需給ギャップはどんどん広がり、介護職員不足が深刻化する。自治体のがんばりだけではどうにもならない。NPOをはじめとする民間団体の活動に期待するところが大きくなる。地域ぐるみの支援、住民同士の助け合いがどうしても必要になる。ほんとうの意味での自治体と住民団体との協力・連携が、高齢者支援の場面では絶対に不可欠である。

 高齢者の介護難民があふれ、「老人地獄」と言われるような状況が現出するような自治体では、地方創生どころではない。バラ色の夢を振りまくだけでなく、老後についての住民の不安を取り除くための施策を確実に実行するのは、すべての自治体にとっての大事な責務である。    


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