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月刊ガバナンス平成28年2月号
続アサノ・ネクストから 第65

難民行政転換の必要性

 中東情勢の緊迫、押し寄せる難民への対応が国際的に大きな問題となっている。我が国にとっても、先進国として応分の責任を負うべき課題である。どんな課題があるのだろうか。

 まず、数字から見てみよう。2014年の難民申請者約5,000人のうち、難民認定者は11人、認定率0.2%で、先進国中の最低である。難民の受け入れ数はアメリカ2万人、ドイツ1万人,フランス9千人となっている。韓国の59人と比べても、大きな差がある。

 日本の難民認定数が極端に少ないのは、難民認定の審査が極めて厳格だからである。難民認定のためには、申請者の側で膨大な量の書類を提出することが求められる。「難民であること」を立証することは、弾圧を逃れて母国を脱出してくる申請者にとって、あまりにも厳しい。書類を取り寄せるにも時間がかかり、審査に3年以上要することも少なくない。

 難民申請者が5000人以上いて、難民認定が11人しかいないということは、膨大な数の未決者がいるということである。彼らは難民としての保護を受けることができないし、母国に戻ることもできない。こういった宙ぶらりん状態の人たちがたくさんいる。こういった人たちへの公的支援はないに等しい。お金がないだけでなく、地域の住民でないので、家を借りることも困難である。ホームレスに近い最低限度の生活を余儀なくされる。

 難民認定の審査は、法務省入国管理局が担当する。難民申請が不認定となると、その時点で不法入国者になり、強制送還の対象となる。送還までの期間は入国管理局の施設に収容される。

 全国3ヶ所にある「入国管理センター」では、難民申請者が他の不法入国者とともに強制送還を待っている。いつ出られるのか、強制送還されるのか、わからないまま何年も収容されている。収容所内での暴行、虐待、性的ハラスメント、不十分な医療などの過酷な処遇が国連人権理事会でも問題とされている。

 ここまでのことを知ると「難民申請者がかわいそう」だけでは済まされない大変な問題であることがわかる。人権問題であり、人道的問題でもある。シリア内戦からの難民が世界規模で広がる中で、日本だけが門を固く閉ざしておくことは許されないだろう。

 どうしたらいいのだろうか。日本は難民条約の規定どおり、難民としては母国で政治的理由の迫害を受けているものという、定義どおりのケースしか認めていない。しかし、日本以外のほとんどの国では、内戦などの紛争から避難しているものも条約上の難民と認めるようになっている。まずは、同様な措置をとるところから始めてはどうか。それがむずかしければ、せめて人道的な配慮での在留許可を、現在の100人程度から大幅に増やすことを考えるべきである。

 難民保護を厄介なこと、避けたいこととする難民行政の考え方を改めて、前向きなものと受け止めることが重要である。国際貢献、人権の推進だけでなく、さらに人材の確保、多文化共生という政策目標も一緒に達成できる。一石四鳥といってもいいのではないか。


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