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月刊ガバナンス平成27年12月号
続アサノ・ネクストから 第63

一億総活躍と地方創生

  第3次安倍改造内閣の目玉政策は、1億総活躍社会の実現である。そこで掲げた「新三本の矢」はGDP600兆円、希望出生率1・8、介護離職ゼロである。目標達成のために、具体的にどんな矢を放ったらいいのか。早急に緊急対策をまとめなければならない。新年度予算編成は目の前である。関係省庁はこれを機に、新規予算獲得に走る。霞が関では毎度おなじみの光景である。

 予算を獲得して、各省庁は施策を実行することになるのだが、その施策は1億総活躍社会の実現にどう役に立つのだろうか。具体的に実効性のある施策を打ち立てることのむずかしさを担当省庁は自覚しているとは思えない。例えば、文部科学省がやろうとしているフリースクール義務教育化や夜間中学校の増設という施策は、3本の矢のどれにもつながらない。

 そもそも、全体としてどこまで実現したら、1億総活躍は成就したということになるのか、全然わからない。だから、この政策は成功したのか、失敗したのか、誰にも判断できないことになる。失敗も成功もないのなら、「失敗の責任」など、あり得ない。むしろ政策そのものが無責任ということか。

 昨年安倍首相が大々的に打ち上げた地方創生も同じである。国が言い出す前から、独自の地域づくりに成功している自治体は数多くある。一方で、「地方創生に失敗」というのが、どういうことなのか、誰もわからない。失敗か成功かが判然としないのは、1億総活躍と似ている。

 プレミアム商品券が典型例であるが、自治体はこぞって実施しているのに、地方創生には何の役にも立たない施策が並んでいるというのも、1億総活躍社会の3本の矢の行く先を示唆している。関係省庁が、実現に役に立つかどうかは度外視して、予算獲得に血道を上げるというのは、「1億総活躍」が初めてではない。東日本大震災の復興予算の一部もそうであった。

 「1億総活躍」と地方創生、内容的に似通ったところがある。「出生率1・8」という目標は、地方創生の「人口増」の目標に通じる。「介護離職ゼロ」は、地域の暮らしやすさを高めるものである。一方、「GDP600兆円」の目標は、地方での生き方が「くたばれGDP」の路線であることと相容れない。

 地方創生は、内政の大きな看板となる政策である。「アベノミクスの恩恵を全国津津浦浦に」と安倍首相が強調したのは、統一地方選挙に向けてのアピールだったという見方もある。

 「1億総活躍」も、安保法制で支持率を下げた安倍政権としては、来夏の参議院選挙前に内政の目玉としてどうしても打ち上げておかなければならない政策である。そんな思惑から、「中身はともかく」というような政策が打ち出されるのは、困ったことであると言わざるを得ない。

 「1億総活躍」が「GDP600兆円」、「出生率1・8」といった実現不可能な目標を掲げているが、これを国の政策として掲げることには違和感がある。ある日突然に、全国の自治体を一斉に地方創生に向けて走らせるのを国の政策とは言わない。「1億総活躍」にしても、地方創生にしても、国の政策としては不真面目に見える。          


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