浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

 

月刊ガバナンス平成27年10月号
続アサノ・ネクストから 第61

安保法案と原発再稼働
-これからどうする

  安全保障関連法案(以下「安保法案」)が成立した。鹿児島県川内原発が再稼働した。

 どちらの案件にも、国民多数からの強い反対の声があった。にもかかわらず、実行された。「民主主義ってなんだろう」という思いがいやでも湧いてくる。

 二つの案件の決定に至る経緯にについてはまだまだ書きたいことがあるが、今回は別な観点から、これら二つの案件に共通する問題点について論じたい。

 まず、安保法制について考えてみる。集団的自衛権を発動するような事態は、国会での審議の中でも、政府側からはその具体例の提示が明確にはなされなかった。であるからして、そういった事態が起きれば、それは、ほぼ「想定外」ということになる。その事態に直面して、一体誰が、どうやって集団的自衛権の発動を決定するのだろうか。閣議を経るのか、国会の承認は求めるのか、時間的余裕がない中で悠長な手続きを経る暇がない。決断の際に必要な情報はどこから得るのか、その情報の分析は誰がするのか。なにしろ、初めて直面する事態だから、前例がない。ノウハウも蓄積されていない。これがまず問題になる。

 集団的自衛権の発動が決断されると、次は自衛隊が動くことになる。どこの部隊が出動するのか。指揮命令系統は確立しているか。実際に自衛隊にはどこまでの活動が許されるのか。国際法に照らし、憲法の枠内で、安保法制の定めに則り、「ここまでならいいか」、「これ以上は許されないのか」を現場で決断しなければならない。初めての事態なのだから、それは非常に困難なことである。困難ではあるが、やらなければならない。その結果として、とんでもないことになるのではないか。これが心配でならない。

 川内原発は再稼働され、営業運転が再開されている。「世界で最も厳しい安全基準」(安倍首相)をクリアしたから再稼働となったのだが、クリアしたのは設備の基準であって、それを扱う人間の知識、経験、能力が十分であると確認されたわけではない。特に、事故発生時、危機的状況に直面したときに、その原発内にいる職員が、的確な対応をできるかどうかは実証されていない。ベントが確実に実施できるか(福島原発2号機ではベントに失敗した)、圧力容器の減圧と注水のタイミングを的確に図れるかなど、現場の職員に課された責任は大きい。

 現場の職員は、事故発生時に危機対応を的確にやらなければならない。だとすれば、主だった職員がそういった知識と実技能力を備えていることが、本来は、安全基準の項目に入っていなければならない。それができていないのだから、次善の策として、川内原発において、速やかに、職員全員に対し、甚大事故発生時の危機対応の詳細を知らしめなければならない。そのための研修が必要である。

 以上、安保法制と原発再稼働について、「わがことなれり、めでたしめでたし」とはならないということを言いたかった。特に、人的ファクターの部分の不備がとても気になる。さらに言えば、ここで指摘したことが徹底できなければ、どちらも白紙撤回すべきものであることをつけ加えたい。        


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